アルパインクライマーになりたい!!
8/13~18 北アルプス-剱岳の登攀
メンバー:L玉谷和博(記) SL坂本多鶴 渡辺 山中
岩と雪のバリエーションルート、いわゆる本チャンに行きたい!ユッコちゃんのオッパイおさわり権と引換えに「垂直に挑む男」吉尾弘さんに弟子入りした僕らは、初めて一ノ倉に連れて行ってもらった。フリーとは違う、アルパインの危なさ。嵐のなかの何ピッチも続く懸垂下降。意外なほど慎重に攀じるベテランたち。そして初めて本チャンをリードした自信と、アルパインクライミングの強烈な面白さ。と、ここまでは前号までのお話。さて今回は、谷川、穂高と並んで三大岩場の一つに数えられる剱だ。源治郎尾根縦走、八ツ峰Ⅵ峰Cフェース剱稜会ルート、チンネ左稜線などなど・・・。剱沢にテント定着、5泊6日で思いっきリクライミングざんまい。想いはドキドキわくわく。連れていってもらうんではない、僕らの力でガシガシ攀じるぞ!
8/12 松戸駅20:30=(JR)上野駅21:55急行加賀=(JR)
8/13 富山駅5:48/6:17=(富山地鉄)立山駅7:07/7:20・・・美女平7:27/7:40=室堂8:30/9:00 別山乗越14:00/15:15 剱沢16:30 (テント泊) 晴れのち雨
「源のますの寿し」をパクつきながら列車に揺られていく。右の窓には海。左側の田んぼの向こうには剱岳。「富山っちゃ、ホントにエエとこながいちゃ」(富山弁)。荷上げはキツイ。テント装備、アイゼン・ピッケル、登攀具(これが重い!)、酒(これは軽い?)、合わせて35㎏以上。ちんたらと5時間もかけて(!) 剱御前小屋に着く頃に雨が降りだし剱沢へと急ぐ。剱沢は実にステキなテン場だ。目の前には憧れの剱。そしてテン場料は何泊しても1人500円。つまり1泊100円。これは安い。しかし担ぎ上げたお酒4升じゃ足りるはずもなく、結局酒代が高くついてしまったのは、言うまでもないのです。
8/14 剱沢5:20 源治郎尾根取付点6:20/6:45 2ピッチ目終了点8:15/8:45 支稜線9:45/10:00 源治郎尾根Ⅰ峰/11:00 Ⅱ峰/12:00 懸垂下降のコル/12:55 剱岳13:50/14:10 剱山荘/16:25 剱沢キャンプ場17:00 (テント泊) 雨のち晴れ
「クライマーはスパゲティーしか食べない」という噂を信じて、朝食はミートソース。ラーメンではダメなのである。今日の予定は剱の岩場入門の、源治郎尾根縦走。いったん平蔵谷まで下り、尾根の末端をルンゼから取りつくルートをとる。メットをかぶり、クライミングシューズを履き、ガチャもの(登攀具)を鳴らせば気合が入る。
出だしのピンが少ない2ピッチを俺とナベちゃんが交代でリード。花崗岩の乾いた感触がイイ。だけど、3人パーティーのザイル操作は煩雑だし時間がかかるし、今後の課題だなぁ。2人でツルベが早いのだ。そこからはザイル不要で、浮き石に注意しながら落石だまりのスラブ状のルンゼをつめていく。一登りで支尾根上に。平蔵谷を渡る雪渓の涼しい風。気っ持ちいィー。
さらに主尾根に出ると八ツ峰が見える。ギザギザな八ツ峰に張り付くクライマーを探しながらⅠ峰Ⅱ峰を越えると、30mの懸垂下降だ。ちょっとしたミスも次に生かして、より確実なものにしていきたい。コルからはもう目の前、「一般登山者がいる中、メット・登攀具をつけてピークを踏むのって、なんか英雄気分なんだよな」とはナベちゃん。うんうん気持ちはワカル。頂上で3人ガッチリと握手、登攀は終了した。
一般コース経由で戻ると、テン場は台風12号に備えて騒がしい。さっそくわが家も高い場所に引っ越し、ツルハシ(ピッケル)やトンカチ(ロックハンマー)で排水管工事。非常食もあるし、山屋さんは災害時には強いのです。
8/15 剱沢キャンプ場にて停滞 (テント泊) 暴風雨
終日、台風は荒れ狂う。びしょ濡れのテントの中、透水性バツグンの雨具を着込み、3人で膝をかかえながら台風が過ぎ去るのをじっと待つ。「ピーガガ…は輪島付近をゆっくりと北上中…」ラジオもよく聞き取れない。新品のテントは早くもボロボロに…。
8/16 剱沢キャンプ場にて停滞 (テント泊) 雨のち曇り
台風は北海道に去ったけど朝から雨。シュラフも服も靴も何もかもがびっしょりと濡れて気分も重い。10時頃、親方(山中さん)久々の登場。積もる話にお酒も旨い。「親方ぁ!仕事も大切だけども山もね。アルパインってやつをワシらに教えてくだせぇまし」
8/17 剱沢5:00平蔵谷出合5:35/5:40 S字雪渓/8:15 源治郎尾根Ⅱ峰平蔵谷側Cフェース?10:00/10:15 Ⅱ峰12:30/13:00 懸垂下降のコル/14:00 長次郎谷/14:30 熊ノ岩14:50/15:00 剱沢キャンプ場17:30 (テント場) 快晴
夜中の満天の星空が快晴を約束していた。久しぶりに朝のテン場がにぎやかになる。2日間の停滞で腐っていた体中の細胞が活発になる。今日の予定は八ツ峰Ⅵ峰Cフェース剣稜会ルート。だけど、長大な八ツ峰の小さな壁の小さなルートにへばりつくのは、なんだかせせこましく感じる。決して壁を怖がっているわけじゃなくて、本当にそう感じてしまうほど剱は大きい。雪渓に朝の光が輝き、山が鮮やかに染まっていく姿は何ともいえず美しい。凍って滑るので長次郎雪渓の途中でアイゼン・ピッケルを出し、急な斜面を登っていく。
熊ノ岩はまだかナ?源治郎尾根に妙に人が沢山いるナ??などと思っていたら「平蔵谷だよ、これ。間違えた」と親方。ガガーン。急きょ源治郎尾根Ⅱ峰平蔵谷側フェースを登ることにする。深いクレバスの開くS字雪渓を雪キノコでビレイし、トラバース。ハイマツの薮を漕いで、ナベ-鶴、親方-玉ペアでDフェース(?)に取りつく。ガリー寄りに登ってしまい、残置ピンが無いのでハーケンを打ちながらの登攀。ブッシュも支点として有効に利用する。3ピッチ半。僕らはこのルートを「ニセ八ツ峰平蔵谷側ニセミテ親方ルート」と名付けた。最後にハイマツを漕げばⅡ峰の端に飛び出す。眼下に輝きながら広がる雪渓と、荘厳な八ツ峰。「あれが5・6のコル、Ⅵ峰、チンネの頭…」また来る日には必ず登りたいね。Ⅱ峰から懸垂でいったんコルへ下り、ガレガレの枝尾根をたどって長次郎谷へ渡る。そして親方の華麗なるグリセードと、長次郎谷の幻想的な景色を眺めながらテントに帰った。
今日はルートこそ誤ってしまったけど、どんな状況でも落ちついて対処し、どんなルートでも自由に歩ける力。これこそがアルパインだと実感したのです。
8/18 剱沢6:20 別山乗越7:15/7:35 雷鳥沢8:30/8:40 室堂9:50/10:15=扇沢12:50/13:45=(キジ坊車)信濃大町駅14:00/15:35=(JR)松本駅16:05/17:20=(JR)新宿駅20:17/20:30=(JR)松戸駅21:15 快晴
この剱沢にテントを張って、もう何日になるだろうか。できることならこのままずっとこうしていたいと思う。別山乗越までは何度も何度も剱を振り返りながら歩く。ギザギザで長い八ツ峰。Ⅰ峰、Ⅱ峰の大きな源治郎尾根。山全体がゴツゴツの岩峰という感じで、威風堂々とした剱岳。剱は良かった。台風のおかげで全然予定通りには登れなかったけど、剱は良かった。信頼できる最高の仲間と最高の山。これさえあれば、もう何もいらない。巨大なザックとキッタネーかっこうの僕らは、ごった返す観光客の間をさっそうと(?) 英雄気分ですりぬけていった。さあ!あとはビールだーっ!
<費用>
松戸~富山(JR) 8140円
富山~室堂(アルペンルート) 3560円
室堂~扇沢(アルペンルート) 5760円
信濃大町~松戸(JR) 7110円
テント場代 500円/5日分、他 食費など