八ヶ岳西壁で冬期クライミング②
2/1~2八ヶ岳-赤岳西壁主稜(北峰リッジ)
メンバー:L玉谷和博(記)、SL坂本多鶴
またまた来ました八ケ岳。
凍傷(しもやけ?)の足を引きずりながら、先週の失敗をバネにして今回は赤岳主稜一本に目標をしぼり再度挑戦です。
2/1(土) 松戸5:50-(JR)新宿7:00-(JR)茅野9:08/9:20=(タクシー)美濃戸口9:55/10:15赤岳鉱泉13:50 [晴れのち雪]
2/2(日) 赤岳鉱泉5:30 行者小屋6:00/6:10 主稜取り付きのトラバース分岐7:30/8:00 赤岳主稜を経て赤岳北峰14:00/14:10 行者小屋15:00/15:10 赤岳山荘17:00/18:15=(車)樅の湯18:30/19:10=(タクシー)茅野19:35/20:28-(JR)新宿22:40/22:50-(JR)松戸23:30 [快晴のち曇り]
咋日は赤岳鉱泉までの行動だったし、お酒もそこそこ(?)だったので体調は万全。4:00に起床して、5:30ちんちんに冷え込んだ暗闇のなかアイゼンとハーネスを付けて出発。中山乗越を越え、行者から急な文三郎尾根を一息に登れば、2時間ほどで目指す主稜の取付点に着く。文三郎道が大きく右へ曲がるところ、杭に赤テープが巻いてある所がそうだ。すぐ直下には赤岳沢から主稜へと取りつこうとしているクライマーが見える。
はやる気持ちを抑えながら僕らもさっそく登攀の準備だ。はるか遠くには屏風のような北アルプスが、モルゲンロートに染まっている。無風、快晴。最高の登攀日和なのです。「雪訓ですか?」通りかかった登山者が話しかけてくる。大きなザックと過剰装備(?)の僕らをそう思ったのかな。「えっ!あんな岩場を登るんですか。素晴らしいなぁ」 えヘへっ、思わず頬がゆるむ。
ヘルメットをかぶり、重いガチャもん(クライミングギア)を肩にかける。どっから見ても、いっぱしのアルパインクライマーだ。でも真新しいギア君たちがちょっぴり恥ずかしい。φ9mm×45mを2本、ダブルザイルにしてお互い結び合えば準備完了。「いくぞっ!!」「おう!」
まずは赤岳沢右ルンゼの急な雪壁を40mほどトラバースして、いきなり最初の核心部(Ⅳ)のチムニー状の凹角の下に出る。覆いかぶさるように立ちはだかる岩場を先行パーティーがなかなか越えられず、雪をドカドカと落としてくる。待ち時間がやたらと寒く、もう足指先の感覚がない。ここは僕がリード、しばし壁に貼りつく冬のセミになる。ビレイヤーの多鶴ちゃんがこちらを心配そうに見上げている。咋日の晩は、でろんでろんに酔っぱらっちまって、まるでダメ人間状態だったけど、こういう時はさすがに真剣だ。15分ほどもがいて、やっとの思いで抜けると尾根上のコルでビレイ。雪は多いしフカフカだし、思っていたより全然手強いなぁ。多鶴ちゃんは、コルからそのままバンドを右上してハーケンのある小テラスでビレイ。
つづくピッチは垂直の凹角を左から越えて、ミックス壁からリッジに出る。まるで綱引きのように重いザイルを引きずって、凍った岩角でビレイ。雪をかぶった岩場はザイルを重くし流れが非常に悪くなる。多少時間はかかるけど、ルート図のピッチにはこだわらず、なるべく短くピッチを切るようにしたい。空はあくまで青く、ガチャもんの鳴るヒビキと、キーンと突き刺す冷たさと、適度の緊張感。信頼するパートナーと、快適なクライミングをしている悦び。「楽しいねぇー!」あまりニヤついていると多鶴ちゃんにまたグーでブッ飛ばされるのでやめておこう。
易しい雪稜をコンティニュアスでつなぐと、正面に凹角状の15m程の岩壁が現れる(Ⅲ)。これは多鶴ちゃんが中央から軽々と越え、リッジまでしばらくザイルをのばすとデッドマンを使ってビレイ。ここからは左側に競り上がる岩壁を見ながら雪壁をまたコンテで右上していく。頂上はすぐそこに見えているのに、登っても登っても、どんどん遠のいていくように感じる。ルンゼ状の雪壁をダブルアックスでガシガシ登り、右ルンゼを真下に見る小コルでビレイ。ここでハーケンを打つ。
次のピッチ40mがいよいよ主稜の核心部(Ⅳ)だ。順番からしてもここは僕がリード。今日はツイている?正面のやや被った壁を微妙なバランスで攀じっていく。途中でランニングビレーを一本。上に上がればスポッと簡単に抜けてしまいそうな岩のわずかな引っ掛かりに命を預け、そうーっとシュリンゲでタイオフ。フー。ここで一息入れ、またぞろニジリニジリと冷や汗をたらしながら少しずつ攀じっていく。そして凹角内の垂直のミックス壁へ。
ガバが多いって聞いていたのに、ウソつけー!雪(氷)の付き方が悪いのか、手掛かりが見つからない。残置ハーケンも全くない。ハーケンを打つ余裕もない。再び冬セミとなる。「や、やばい・・・落ち、落ちる」下を見れば3mほど下に、かろうじてぶら下がっているランニングがヒラヒラと。ここで落ちれば6m。いや、ランニングが抜けて60mは墜落するだろう。さらにさっき打ったハーケンが抜けたら…。前にも後にももう人はいない。自力救出もできないだろう。この冷たい壁でビバークか?どうする?マイナスイメージが次々に広がっていく。
とにかく上へ攀じろう…ただそれだけ。バランスを崩さぬように気をつけながらオーバー手袋と毛の手袋を歯を使ってそっと脱ぎ、素手で細かいホールドを探して少しずつ上ヘ…少しずつ。この抜け口がすごく悪い。「お待たせ!」ようやくリッジへ上がり、残置ハーケンでビレイをとる。ここを越えればあとは易しくなる。リッジから雪壁を登り、2本目のハーケンを打つ。短い凹角を越え、安定したテラスでピナクル状の岩からしっかりとビレイをとればもうすぐ終わる。風が強くなり、声も届かないけど、一歩一歩確実に多鶴ちゃんが登ってくるのがザイルを通してわかる。
最後は傾斜の緩い雪稜をいけば一般道と合流して14時に寒々しい赤岳ピークに立つ。そして感動の余韻も景色を楽しむ余裕もないまま、遅い昼食もそこそこにして急な地蔵尾根をかけ下り、くたくたになって帰途についた。
怖かった!けど、すっごく面白かった。そして勝ち取った充実感。いつも思う。自分たちで計画を作り上げていくうちに、はたして本当に僕らだけで登れるのだろうか?と。技術は足りているのか?装備は充分かい?逃げ道はどうだ?ルートは?急に怖くなってきて、もうやめちゃおうかと何度も思う。そんな時に同じ想いの憧れを持つザイルパートナーがいてくれる。そして山行が終われば、満足感であふれたビールの泡と一緒に、また次の目標が生まれる。そのくり返し。面白い、面白い。だからアルパイン、もっとアルパイン。次は石尊稜へ行きます。
<注意>
- 寒さ…冬の八ヶ岳はとにかく寒い。特に足の指先の冷えに注意した。ホカロン、フリースの靴下、トウガラシ、塗る温シップ、指先のみに履く靴下など試してみたが3週間後の未だにまだ指先の感覚がない。
- ギア…ザイルはφ9mm×45mダブルは必要だと思う。スノーバー、アイススクリュー、スナーグをそれぞれ2本ずつ用意したが、使う場面はなかった。やはり今回のような雪稜では支持力が強くて頼りになるデッドマンと、アングルも含めた各種のロックハーケンを4~5枚は用意したい。バイル、ピッケルには流れ止めが必要。またセルフビレイ用に大きめのカラビナがあると便利。
- 技術…コンテはスピードアップにはなるが、僕らのような初心者どうしには危険な技術だ。まだまだ雪稜(雪壁)歩きの未熟さを痛感した。難しいピッチでは、その直下でビレイすべき。ザイルが余っているからといって、長く伸ばしてしまうと危険。ルート図のピッチにもこだわらずに、なるべく短くピッチを切るようにした方がいい。
コメント
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