アルパインクライミング(グレードー3級、Ⅳ・A0)
8/2~3 一ノ倉沢.烏帽子沢奥壁中央稜
メンバー:L玉谷和博(記)、SL坂本多鶴
今回めざすのは、去年6月に吉尾弘さんに連れていってもらった南稜と並んで一ノ倉沢入門ルートといえる“中央稜”。今度は頼る人が誰もいない。すべて自分たちだけで行動・処理しなければならない。はたしてその先に僕らが見たものは-。
8/2(土) 松戸15:16=(JR)上野15:36/15:39=(JR)高崎17:07/17:20 =(JR)水上18:34=(タクシー)一ノ倉沢出合19:00(テント泊) 小雨
8/3(日) 一ノ倉沢出合6:30 ヒョングリの滝7:30 テールリッジ末端8:30 中央稜基部9:30 5ピッチ目終了点13:30~往路を懸垂下降~中央稜基部15:00 テールリッジ15:30/17:30 ヒョングリの滝18:00 一ノ倉沢出合19:30/20:00 土合20:45/21:00=(タクシー)上毛高原21:25/21:50=(JR)上野23:00= (JR)松戸23:35 晴のち雷雨
朝、出合から見上げると一の倉沢の岩場は青空のもと恥ずかしいくらいに丸見えだった。慌ただしいテント村。まわりにいる全員が自信に溢れたべテランクライマーに見えてしまうのは僕らがまだ不安に溢れているからなんだろう。さぁ行こうぜ。6月に来た時にはここからテールリッジまでたっぷりの残雪があったのでアプローチがとてもラクだったが今はない。しばらく本谷の右岸を進み、ケルンに導かれて左岸をたどるとやがて小雪渓が現れる。早起きのカメラマンたちが赤く焼けた一ノ倉を狙っている。
そこから先はクライマーだけの世界だ。雪渓から右岸の岩への滑りやすいトラバース。落ちたらヤバイ。滝の落ち口にはシュルンドが底も見えず、ゴーゴーと暗く不気味な口を開けている。アイスバイルを使って慎重に渡り、そのまま右岸を高巻くように延びる踏み跡を進んでいく。ヒョングリの滝上部の40mの懸垂下降を経て、スプーンカットの雪渓からテールリッジへ取りつく。まだアプローチとはいえⅢ~Ⅳ級の所もあり、ここで墜落死しているクライマーもいるので要注意だ。それにしてもクソ暑い!夏の一ノ倉は×である。陽射しを遮るものは何もなく、鉄板焼状態でフラフラと行く。ようやく衝立正面壁にぶつかる所が中央稜の基部になる。壁に張り付くクライマーを見ながら僕らもさっそく登攀開始。
まず1ピッチ目、傾斜の緩いフェースを多鶴ちゃんがリード。つづく僕は烏帽子沢奥壁側へ回り込み、泥混じりの脆いルンゼ状を攀じる。3、4ピッチ目はそのまま頭上の明確な凹角(これが間達っていたらしい)。本谷の雪渓を眼下に見ながら気持ち良くザイルを伸していく。「落、ラーック!」の声よりも早く、でかい落石がビュンビュン唸って飛んでくる。雪渓の崩れる音や岩なだれが雷のように「ゴロゴロ、ズンドカーン!」不気味な大音響が神経を緊張させる。これが一ノ倉登攀のBGMなんだ。
4ピッチ目が核心部(Ⅳ、A0)。残置ハーケンは多く、10m程の1段をあぶみを使って強引に越えたがさらに上にあるもう1段が登れず選手交代。多鶴ちゃんがあぶみ2台とシュリンゲを多用しニジリ上がっていく。上を見上げ、鳥が羽ばたいていく度に「落石か?」とドキッとする。2段目を越えるとさらに右上にハング気味の濡れたクラックが続く。かなり難しい。やっとの思いで抜けると不安定な狭いテラスでビレイしている多鶴ちゃんがいた。「こんなトコよく登ったな。V+、A0だよ、これ」「中央稜がこんなに難しいはずがないよね」
続く6ピッチ目、ボロボロの草付を1段上り凹状をさらに20mザイルを伸ばした所で13時30分。「やめとこか」少し早いような気もしたが何だかヤな予感がしたので、あと2ピッチを残して撒退を決める。行きも恐いし戻るも恐い。まずは4ピッチの懸垂下降。これがホント恐いんだ。核心部で斜めの空中懸垂にひっくり返りそうになりビビリ、回収時に何度かクラックにザイルがつまっては真っ青になりながらもなんとか本谷バンドへ降りた。懸垂下降は一見簡単な技術だけど、もっと研究しなければと思う。なんせクライミング中の死亡事故の25%がこれで起きているのだから…。
ポツリポツリと降りだした雨は雷をともなって次第に強くなり、あっという間にドシャ降りに。「ピカッ!1・2… ドカドカーン!!」かなり近い。避ける所がないからとにかく低い所へ逃げなきゃ。逃げ足は早い。まるで避雷針のようにアイスバイルがザックについていることも忘れ、やばいテールリッジを転がるように駆け下り、中間部の樹林帯に逃げ込んだ。本谷の雪渓上にはゴーゴーと荒れる激流が見える。この先まだかなり危険な所を通過しなくちゃならない。2時間の停滞後、懸垂でテールリッジ末端に降りたのが18時。そのあと暗くなるのは早かった。どこをどう歩いたかはよく覚えていない。とにかく生きて帰んなくちゃと思ってた。くたくたの体を引きずって一ノ倉沢出合に戻ったのが19:30。急いでテントを撤収して、土合へと向かった。今回2度目の一ノ倉だったが、やはりアプローチを含めたこの岩場の恐さを感じた。そして前回の南稜の時は吉尾さんらベテランの人たちにルートファインディングや懸垂の工作など全てお膳立てをしてもらい、明らかに「連れていって頂いたのだ」ということを再確認した。でも自分たちで行けなきゃ意味がない。もっと経験を積まなくちゃ。もっと力が欲しい。ハーネスを締めなおして、また出直します!
Ps.後日、ルート経験者に聞いたところ「中央稜ならそんなに難しい所はないはず」との事。写真が詳しい17年前発行の山と渓谷社「谷川岳の岩場」を参考にしたのだが、どうやらルートを間違えてしまったようです。(と信じたいのです)
<注意>
一ノ倉沢の登攀では、他の岩場と比べて不安定な天候・アプローチが悪いこと(雪渓、シュルンド・ヒョングリの滝の懸垂下降・テールリッジの登攀)・脆い岩・いやらしい草付・何ピッチも続く懸垂下降のことなどを考えて、最後まで絶対に気が抜けないので残業(夜間行動)しないように余裕をもって行動したい。
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