<山行報告書>アルパインクライミング
8/9~16 北アルプス・剱岳の登攀 チンネ左稜線、八ツ峰Ⅵ峰Aフェース、Cフェース
メンバー:L.玉谷和博(記)、SL:坂本多鶴
夏だ!剱だ!合宿だ!夏なお広大な雪渓にぐるりと囲まれた岩壁たち。チンネ、八ツ峰、源治郎尾根…。ブッシュのないスッキリとした花崗岩の岩壁。憧れの“雪と岩の王国”に今年も懲りずにやって来ました。去年の二の舞にならないように、予備日たっぷりの7泊8日。台風の一ツや二ツ直撃しても全然OK!真砂沢のキャンプ場をベースにして爽快なクライミング三昧をしようという寸法なのだ。
8/8(金) 松戸駅22:30=(JR)上野駅23:58=(JR)
8/9(土) 富山駅6:02/6:28=(富山地鉄)立山駅7:29/8:00=(ケーブル)美女平8:07/8:20=(バス)室堂9:10/9:40 別山乗越13:00 別山平13:50 真砂沢BC16:00 [曇]
8/10(日) 真砂沢BC8:40 長次郎谷出合9:20/9:30 真砂沢BC10:00 [雨]
8/11(月) 真砂沢BC10:50 熊ノ岩13:30 真砂沢BC15:00 [雨]
8/12(火) 真砂沢BC4:30 池ノ谷乗越8:00 三ノ窓9:30 チンネ左稜線の取り付き10:00 ~チンネ左稜線~ チンネの頭14:30 池ノ谷乗越15:15 真砂沢BC17:00 [晴]
8/13(水) 真砂沢BC [雨]
8/14(木) 真砂沢BC6:00 八ツ峰Ⅵ峰Cフェース基部9:20 ~剣稜会ルート~ Cフェースの頭13:30/13:40 五・六のコル15:00 真砂沢BC17:00 [晴のち曇]
8/15(金) 真砂沢BC8:50 八ツ峰Ⅵ峰Aフェース基部11:00/登攀開始15:30 ~魚津高ルート~Aフェースの頭17:00 五・六のコル17:40/17:50 真砂沢BC19:00 [晴]
8/16(土) 真砂沢BC5:15 ハシゴ谷乗越7:00 内蔵助平8:40/9:00 内蔵助出合11:30 黒部第4ダム13:35/14:05=(バス)扇沢14:20=(タクシー)薬師の湯14:45/15:50=(タクシー)松本駅?/20:00=(JR)新宿22:37/23:00=(JR)松戸駅23:30着 [快晴]
僕らは今「クラシックルート」と呼ばれるアルパインクライミングの☆☆☆(三ツ星)ルートに夢中になっています。クライマーならばまずは攀じってみたい名ルートばかり。谷川岳一ノ倉沢南稜、北岳バットレス四尾根主稜、穂高涸沢岳西尾根(冬)、赤岳主稜(冬)、穂高滝谷ドーム中央稜、そして今回の剱岳チンネ左稜線。「難度や登攀距離、高度感やロケーション、ルート自体の美しさなどを総合して剱岳のみならず日本を代表するアルパインルート」だなんて聞けばドキドキしてくるのは当然なのです。
チンネ左稜線(グレード:4級下、V、450m)
待ってました!!久々の晴天に気持ちがはやるのも無理はない。毎日雨ばかり降っていたし、なによりも左稜線は今までで最も長くてグレードも高いものだから気合が入る。3時起床、4時30出発。パックリあいたクレバスを右に左に避けながら剱沢の雪渓から長次郎谷を登っていく。見上げれば長大な雪渓に、岩場へと急ぐクライマー達が。そしてそのはるか上には剱のギザギザの稜線が目を奪う。「スッゲー!これぞアルパイン」
熊ノ岩を越えると雪渓はかなり急になり、もう雪壁だ。ピッケル・アイゼンをつけていてもヤバイなぁ。滑落して頭から血を流しているクライマーを横目で見ながら、とても僕らにはノーアイゼンで登る勇気はないと思う。3時間半のきつい登りを経て池ノ谷乗越を越える。そこから西側のザレザレで急な池ノ谷ガリーを慎重に下っていき、やっとチンネ登攀の起点となる三ノ窓へ着く。チンネは遠いのだ。取り付きはチンネ基部、左端の小バンドだ。左稜線のスカイラインを眺めながら急な雪壁をトラバースして、10時いよいよ登攀開始。
「行くぜ!」「おう!!」頭上のちょっと手強い凹角から左稜線の登攀は始まる。3ピッチ目までは三ノ窓側のフェースクライミング。残置ハーケンも多くてビレイ点も明瞭。バックに白馬・五竜・鹿島槍の雄大なパノラマを眺めながら快適にぐいぐいとザイルをのばしていく。つづくピッチはピナクルの裏にある門のような暗いテラスからフェースを直上。フレンズやナッツも有効だ。左稜線は約15ピッチにも及ぶロングルートなので登攀スピードが気にはなっていたが、ラッキーなことに先行パーティもいないので早い。ここからはいよいよ文字通りの「左稜線」に飛び出していくことになる。
T5まではしばらくⅡ~Ⅲ級のやさしいリッジ。ピナクルの連続するナイフリッジがつづく。クレオパトラニードルや八ツ峰の頭、小窓ノ王、チンネの頭などの峻険な岩峰群が天を突きさすようにトンガっている。ここはまるで異空間、まさに岩と雪の王国だ!核心部(Ⅴ級)は多鶴ちゃんがリード。「やだなぁ~」とか言いつつもザイルはゆっくりと、しかし確実にのびていく。「ビレイ解除!」「OKだ!」下で見ているほど甘くない。まず右側の短いナイフエッジを直上。ホールドのバランスが悪くて難しい。両手両足じゃ足りずに、アゴまで使ってずり上がる。三ノ窓雪渓と剣沢の流れがはるか眼下に見えて、圧倒的な高度感に頭がクラクラしてくる。つづく小ハングはA0で抜けた。これを越えれば残り4ピッチ。やさしいナイフリッジをたどれば、もういつしか高い所はなくなっていた。14時30分。チンネの頭だ。やったぜ。ザイルをたぐれば満足げな笑顔がやってくる。意外と余裕で登れたことがうれしい。
下降は八ツ峰の頭との間から池ノ谷ガリー側へ出られる。充実感たっぷり、もう腹いっぱいだよ。登攀の余韻をゆっくりと楽しみながら、誰もいない広い長次郎雪渓を下っていった。
八ツ峰Ⅵ峰Cフェース剣稜会ルート(グレード:2級、Ⅲ、155m)
中大ルートや久留米大ルート、RCCルート・・・、それぞれ短いルートだから1日に3本ぐらいは登れるだろうと思っていたが甘かった。3時間もかけてやっとの思いで長次郎雪渓を登り、八ツ峰Ⅵ峰の岩壁を見て唖然。「ここは三ツ峠か?」どのルートもゲレンデ並みの大混雑だ。とりあえず有名な剣稜会ルートに取りつく。5ピッチ。1~2時間で抜ける予定だったのにとんでもない。なんせビレイポイントごとに2~3パーティが詰まっていて、1ピッチに1時間以上かかってしまった。ルート自体もあっけなく手応えがなくてつまらなかった。ルートの魅力とはグレードを追うことだけじゃないことは十分わかっているけど、なにも☆☆☆をつけるほどのルートではないと思う。全体的に三ツ峠の一般ルート(中央)に似ている。
八ツ峰Ⅵ峰Aフェース魚津高ルート(グレード:2級、Ⅲ+、120m)
長次郎雪渓を登るのも4度目になると愛着さえ湧いてくる。(登攀が目的ではなくてもぜひ登る価値があります)今日も八ツ峰の岩場は大渋滞だ。Aフェースの基部で順番待ちの列の最後尾に付く。1時間経っても2時間が過ぎてもまったく動かない。どぉーなってんだまったく!!一緒に順番を待っている他のパーティーとも親しくなり、けっこう楽しくのんびりとした待ち時間を過ごす。さらに3時間、4時間…。ひたすら待つ。結局ルートに取りついたのは15時30分。なんと4時間半も待たされてしまった。ルートは3ピッチ、1.5時間で抜ける。1ピッチ目(Ⅲ+)が意外と難しくて楽しく、剣稜会ルートよりも面白いルートだと思う。
今年は台風こそ来なかったけど特に前半の天気が悪かったので停滞したり出発を遅らせたりして思うように行動できなかった。だけど最大の目標のチンネ左稜線は会心の登攀。また八ツ峰の各フェースはどこも大渋滞だったが久しぶりにゆっくりと楽しく登った。
「アルパインクライミング」とは、ただ単に登山の一つのスタイルとしての「登攀」を意味するだけじゃなくて、重要なのは「より困難へ挑戦」することだと思っています。誰のものでもない、自分にとっての挑戦であり冒険であり、初登攀。わき上がる憧憬と抑えることができない衝動と。まだまだ経験の少ない僕らにとってはバットレスも一ノ倉も滝谷ドームも中山尾根も、そしてチンネ左稜線も全て挑戦のつもりでした。足はガクガク、心臓バクバク、頭はグラグラ。毎回恐ろしくって身を削るようにしながらも、ひとつずつ一歩ずつモノにしていきたいのです。でも八ツ峰の各フェースは違っていた。ゲレンデ感覚に近くて気軽に楽しむという感じだった。やっぱり挑戦するようなロングルートの方が圧倒的に充実感があって魅力的なのです。次は前穂東壁や屏風などにチャレンジしたい。そして冬壁へ。
<注意>
八ッ峰に行くなら熊ノ岩、チンネに行くなら三ノ窓にテントを張りたいところだが、これらは幕営禁止。実際、10数張りのテントがあったが2機のヘリコプターと徒歩で富山県警が注意 していた。別山平よりは近いが、真砂沢からアプローチするしかない。
長次郎谷や三ノ窓谷など、アプローチでは必ず急な雪渓を歩くことになる。よほど腕に自信のある人以外はアイゼン(12本爪)・ピッケル必携。