早月尾根から剱岳を目指したのだけれど
97年12月28日(日)~98年1月2日(金) 前夜発5泊6日
L坂本、 SL玉谷、 SL中野勉、高橋、野崎、森、 飯塚(船橋山の会所属)
今度の正月は剱岳。それを決めてからが非常に長かった。打合わせと計画直しを繰り返し、プレ山行に出かけ、買出しを行い、もし遭難したらどう連絡してもらおうか、とか考えたり。
27日:上野駅23:54(急行能登)富山駅6:01
28日:富山駅6:23(富山地鉄580円)上市駅6:45/7:00(タクシー約7500円)ゲート8:00/9:00 馬場島10:00/10:30松尾平12:15 雨のち曇
27日夜、それでも剱岳へむかう日がやってきた。上野駅でデカイ荷物の6人が集合する。翌朝の上市駅で車の飯塚くんも合流。ここからタクシーで入れたのが富山剱青少年研修センター先のゲートまで。あとは馬場島まで車道歩き、積雪はなしである。馬場島には救助にあたる警察の方がつめていて、事前に県に提出している登山届を見せる。ここには年末年始に入山するパーティの一覧表もはってあり、有名な会の名前であふれていた。我々は2番目に届けを提出していたので、上から2番目に松戸山の会と書いてある。正月に松が上の方にあるとは目出たいことだ。さらに我々のパーティには鶴とカメ、トーテムポールもいるのだ。
受付でヤマタンというペンダント状の発信機を人数分渡される。各々微妙に周波数が異なり、遭難後発見されたときに誰だか判別がつく代物である。さらに警察の無線機のコールサインを伝えられ、我々のコールサインも伝える。富山県の警察本部は、山での遭難を少しでもなくそう、遭難が発生したら少しでも早く救出しよう。でも好きな山には登ってもらおう、スゴイのである。日々己を鍛え、深い雪の中で何日間も生活し、事故となれば自分の危険を省みず救出活動を行う、鉄人揃いなのである。こういう体制の山域に入るのであるから、我々だって努力しなくてはならない。細心の注意を払わなければいけない。
警察の人と話して感動しながら、準備を整えて入山する。今回は県連からビーコン(雪崩用無線機)も借りたので、それもつける。今回はほぼ夏道通りのルートであるが、重い荷物を760mの馬場島から2224mの早月小屋まで担ぎあげなければならない。それもこれも登頂するためにやっているのです。急斜を越えると松尾平に入ってくる。1日目はそこで行程終了。
29日:松尾平8:00 早月小屋14:45 快晴・夜間40~50cm積雪
2日目、今日はとにかく登るっていう日。雪が少ないせいか枝がうるさい。長さ2mのしの竹を持っている玉ちゃんと森くんは苦労している。早月小屋につくと快晴の中登頂してきたパーティが次々に降りてきた。2パーティに話を聞くと、大勢が登ったけど待ち時間を含めて頂上まで4時間かかったとのこと。また.頂上直下のルンゼは50mロープの懸垂で丁度よかったということ。上部の方を跳めると、雪はあまりついてないようだった。夜両は雨のような音で雪が降る。でも、風はない。
30日:停滞 小雪
小雪の3日目は停滞。昨日声をかけたパーティは今日下山するとのこと。タ方、小屋の人に明日登ろうと思うんですけれど、と言うとトレースがついたぐらいに出発すれば、じゃあ9時くらいでしょうか。私は風邪をひいたらしく、夜中に調子が悪くなり、明日までには絶対治れと願いつつ眠る。
31日:停滞 晴・夜間20cm積雪
4日目、5時20分からの高層天気図ではワンポイント情報で山は大荒れ、昨日まではワンポイント情報も言わなかったのに、ということで今日も停滞することにする、私も不調なので。なのに明るくなってくると、晴れだ。それでも悪くなってくるんだろう、と思いながら酒盛りが始まる。1時頃に「雪庇の崩壊!!」という叫び声が聞こえた。テントの外もなんだが雰囲気が違うようで、事故があったのか、と全員緊張しながら外の動きに神経を集中する。そのうち、ヘリが来るのでヘリポートの建設を手伝ってください、と声がかかり、急いで靴をはきスパッツをつけて飛び出す。早月小屋そばの小高い丘がその場所のようで、スコップ持参でそこに向かって走る。雪を平らにして踏み固める。ヘリの音がしてきた。離れてくださ~い、急いで小屋に向かって走り降りる。すごい雪煙が舞う。小屋にいた警察の人をのせて、あっという間にヘリは飛んでった。テントに戻る。ラジオから情報を得る。他の山域でも事故が起きているようだ。
明日は出発することにする。まわりのテントでも事故の話をしている。事故はザイルをしまった後に起きたようだ、そのザイルをしまっていた人が助かった、雪庇が崩壊したときは雪煙がまっていた…。うちで心配してるだろうなぁ、事故のあと登ってもいいのかなぁ、と思いながら眠る。
1日:早月小屋3:55 2465峰5:40/7:00 早月小屋7:40 小雪のち曇
真っ暗な中、ヘッデンをつけて出発する。体力のある飯塚くんと玉ちゃんに先頭集団をまかす。昨夜も少し雪が降ったので、トレースは微かにしかないようだ。さらに暗いので、両端の様子がわからない。ザイル通過のところまでは早朝の間にたどりつこう、ということで早く出発したのだが、そううまくはいかない。一旦テントまで戻ったほうがいいかなと考えつつ、進行はトップ集団にまかせる。2450m地点で明るくなるまで待機することにし、ツェルトを被る。ラジオを聞くと天候がよければ7時からヘリを飛ばして捜索を開始するとのこと。ヘリの音が聞こえ始めてきて、ツェルトから出ると、外はガスで真っ白。稜線と空間の境がまじりあうようだ。今日はここまでにしよう、と記念撮影する。下からは地元パーティなど2パーティが登ってきた。テントに到着。やっぱり心配してるだろうな、と思って小屋に電話を借りに行く。私用電話しかない、と警察の携帯電話を貸してくれた。家に電話すると「剱岳で事故があったのよ」と第一声。下山連絡先のリンちゃんと千葉救助隊長の阿部さんに連絡しておいて、と頼む。電話を貸してくれたお兄ちゃんは小屋でいつも酒やジュースを売ってもらっていた人なのだが、昨日ヘリにのって創作に行き、雪の中から手が出ているのを発見したそうだ。
我々のあと登ったパーティも2600mまで登って下山してきた。我々も実質の予備日はあと2日。明日が登頂する最後のチヤンスである。登るか下山するかを話し合う。天気予報では4日に寒波がくるということ。地上天気図と高層天気図をほぼ毎日のようにとったのだが、天気は不安定でなかなか予想通りにならなかった。そして、その天候によって我々は行動を決めてきたが、難しかった。登ろうと思えば登れるのかもしれない、でも下山だって侮れない。登頂するためにここまで来たのだから、それは皆同じである。いろいろな気持ちが飛び交う。我々のようなパーティは少しでも危険性があったら下山しなくてはならない。そんなこと言っていたらいつまでたっても登頂できないと思う人もいるかもしれない。最終的には下山が決定した。でも、その決定で自棄酒を飲んだメンバーはいなかったと思う。
2日:早月小屋8:22 馬場島12:00/12:18 ゲート13:42 小雪のち曇
剱岳とお馴れする日。長いようで短いような時間、でもテント内の臭さが長い時間を物語っている。下山は小屋から2000mくらいまで右側に支稜線が結構あり、かつ赤布もなかったので、登るときにもっとつけておけば良かった、と思った。下山して馬場島でヤマタンを返し、上市の銭湯で身体を清めて、富山の飲みやで内臓を清めて、解散した。脳ミソは山で清めたはず。
※ 1月1日は上市タクシーは休業です。銭湯もやっていません。
※ 車は伊折に駐車するよう指示された(積雪を考慮して)。
※ 小屋では酒(銀盤)、ビール、ジュースを売っている。
※ 12月1日から5月15日に登山する場合、20日前までに県知事あてに登山届を擾出する。
この度の山行は長い時間使いながらも登頂できなかったけれど、私白信はそれ以上のものを得て帰ったと思っている。メンバーひとりひとりの努力やまわりへの気遣いやたくさんたくさん。1週間近くも同じ顔を眺めつづけ、その顔も次第に汚くなってきているのに、何て優しい人たち。そして、剱岳は大きくてカッコイイ。次のときには登頂させてもらおう。それまでに学ぶべきことは多い。やることも多い。なお、山で事故が発生した場合、うちの会員は自分たちで下山できるろうか、連絡手段をどう考えているか、非常時の装備は何を持っているのか、緊急時の連絡体制に見直しは必要ないのか、などが今回頭の中をよぎった。
今回持っていった装備は
ザック、登山靴、アイゼン、わかん、ピッケル、スコップ、ストック、オーバーヤッケ・ズボン、ロングスパッツ、帽子、目出帽、サングラス、長下着上下、長袖シャツ・ズボン、防寒着、手袋(と替)、オーバー手袋、靴下(と替)、エアマット、シュラフ、シュラフカバー、食器、はし、行動食7食分、ヘッデン、予備電池と電球、ナイフ、ライター、地図、磁石、手拭い、ペーパー、計画書、保険証、持病薬、筆記用具、予備ひも、ヘルメット、ハーネス、8環、セルフ用シュリンゲ8本、カラビナ3枚、ビーコン、着替え(以上、個人装備)
6~7人テント、ペグ、銀マット大4、コンロ3台、ボンベ20個、なべ3個、ブス板2枚、ロウソク15本、雑巾、新聞紙2部、ビニル袋+水こし適宜、5リットルポリタン、キッチンペ、たわし、匡薬品、針金裁縫セット、ラジオ2台、天気図、無線機3台、予備電池、9mm×45mザイル2本、ハーケン10枚、中間支点用10セット、バイル4本、デッドマン4個、スノーバー6本、アッセンダー5セット、しの竹20本、クイックゾンデ2本、ツェルト4張、テルモス8個、食糧朝夕各10食分、お茶、お酒(以上、共同装備)
※ しの竹は40本くらい必要。
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