八ヶ岳西壁で冬期クライミング⑦
2/21~22 南八ヶ岳-小同心クラック 2級下(Ⅳ+)
メンバー:L.玉谷和博(記)、SL.坂本多鶴
赤岳鉱泉から横岳を見上げると、あのダルマのように大きく聳える大同心の岩壁と寄り添うように小同心の二つの岩峰がある。その左岩峰の正面に見えるチムニーが、今回挑む小同心クラックなのです。「中山尾根クラスの岩稜を卒業し“岩壁”へと歩を進めたい人には、大同心南稜と共に絶好のルートだ」Byクライミングジャーナル…というわけで、一年ぶりに八ヶ岳の冬壁に向かった。
2/21(土) 松戸5:45-(JR)新宿7:00-(JR)茅野9:08/10:10=(バス)美濃戸口11:00/11:05 赤岳山荘11:40/12:30 赤岳鉱泉15:00 [快晴]
2/22(日) 赤岳鉱泉4:45 大同心の基部7:00 小同心クラックの取り付き点8:30/9:00~小同心クラック~小同心ノ頭12:00/12:15 横岳13:00/13:15 硫黄岳14:15 赤岳鉱泉15:00/15:40 赤岳山荘16:30/17:00 美濃戸口17:40=(タクシー]茅野18:05/19:21-(JR)新宿21:36-(JR)松戸22:30 [快晴]
「今回は多少天気が悪くても絶対に登ってやる!」と意気込んでいた。3時起床、4時45分出発。鉱泉からすぐの大同心ルンゼのトレールをしばらく進み、右岸へ上がるトレースを追って大同心稜へと取り付く。何もかもがまだ眠っているような満天の星空の下、ただひたすらに真っ暗な樹林帯の急登がつづく。2時間ほどで大同心の基部に着く頃、ようやく夜が明けて、赤く焼けた北アルプスの大パノラマが現れる。
一ヵ月前にここを登った時(1/25小同心クラック敗退)はあまりの寒さに脳ミソも凍り、登攀意欲も萎えてしまったっけ。八ヶ岳が特別に寒いのは知っていたけれど、なんとマイナス25℃ですよ!今日はマイナス10℃だから、まあ暖かいと言えるんだろう。「天気もイイし、今日こそサクッと登ろうぜ」と強がりを言ってみたって緊張は隠せないよね。プリプリくん状態だった多鶴ちゃんがたっぷりと雲古をした後、出発。
ここから先はトレースが消えてラッセルになる。大同心から小同心ヘルンゼのトラバース。トレールがあればなんてことないようなトラバースだけど、急斜面に新雪が不安定に乗り、足元から崩れていきそうでヤバイ。落ちれば大同心ルンゼの大滝までいっちゃいそうだ。思わずザイルを出す。(今回の核心部だったように思う)1時間半。
予想以上に時間がかかって、いよいよ小同心クラック取り付き点の広いテラスに着く。ルートは真上にまっすぐ伸びる凹角だ。さてと、まずは腹ごしらえをしてからとルートを眺めていると後続の2パーティが上がってきた。他のパーティがいるとどこか安心感が生まれてしまう。でもこんなことではルートを見る力は付かないのだよ、キミ。
「ラッセルご苦労さま、お先に!」と挨拶をしたのはプロガイドの桑原清さんだ。5人もの若いお客さん(お客さんどうしは顔なじみの仲間のようであった)を連れて、オールリード・ノービレイで軽やかに登っていってしまった。お客の一人は平気な顔をして「桑原さんは絶対に落ちないから…」とか言っていたけど、ガイドは辛いよなぁ。桑原パーティを追いかけるように玉リードで取りつく。
1ピッチ目(Ⅳ-)。フェイスからチムニーめざして左上。岩の感触を思い出しながらアイゼンを刻んでいく。ガバホールド、スタンスは豊富にあるけれど岩が思いっきり立っていて、さすがにこれまでのリッジルートとは違う。残置ハーケン類は意外と少ないので、ガバを利用してまめにタイオフでランニングビレーをとっていく。「早く登れよ~寒いよ…」と下で多鶴ちゃんの目が訴えているのがわかるんだけどね、俺だって精一杯やってるんだからあまりせかさないでくれ。俺は桑原ナニガシではないんだから!夏ならば楽勝のガバホールドも冬はそうはいかない。寒いし、指先はひどく冷たいし、手袋をしているからホールドはうまく掴めないし…。だけどアイゼンの爪は小さなスタンスも確実に拾ってくれる。1ピッチ目は凹角(チムニー?)を一旦左へ出た所がテラスになっている。テラスはいづれも安定していて支点も多い。
2ピッチ目(Ⅳ)急傾斜のチムニーは鶴リード。チムニーはさらに続き、傾斜が強くなるので緊張する。ここは左右の壁に両足を広げて、突っ張るようにしながらズリ上がっていくのです。チムニーを抜けたテラスでピッチを切る。すぐ真横には空飛ぶクジラのような大同心が大きい。ドームには雲稜ルートを攀じっているクライマーが見える。
登り始めが苦しい3ピッチ目(ルート図の2ピッチ目後半部)は凹角から。右肩の陽があたって暖かいテラスへ飛び出す。つづく短いピッチを登ったところが小同心ノ頭だ。ここまでくればもう横岳は近い。あとはコンティニュアスで一息だ。頂上直下の岩場では支点がなくて思わぬ冷や汗をかくはめになってしまったが、13時に横岳のピークに立ち、ガッチリと握手をした。「やったなー!あははっ」
またひとつ越えることができた、またひとつ自分たちだけの宝を手にした。見れば、大同心雲稜ルートを攀じっていたパーティも登拳を終えてドームの上でくつろいでいる。ガイド登山を楽しんでいた桑原パーティはもう下降中。そして僕らはまだ時間に余裕があるので、広い雪原を行く硫黄岳のルートを大汗をかきながら下山した。
「山」にはいろんな登山観があると思うし、各人それぞれの楽しみ方があるだろう。でも僕らの「山」は楽しいだけではもう満足できないのです。山は戦いを挑む対象であって、お金を出せば連れていってもらえるようなレジャー登山とは明らかに違う。「遊びだよ」だなんて気どることもできない。「より高みをめざす、より困難への挑戦」を謳うアルピニズムっていうのは何も先鋭クライマーだけのものではないと思うのです。精一杯のチャレンジであるならば、それが僕らのアルパインクライミング。自分たちだけの力でどこまで登れるのか?そして登れなかったならば、またパワーアップして何度でも狙う。一歩ずつ歩いていけば、いつかはたどりつく。挑戦を続けていけば、いつか夢にたどりつく…。
<注意>
- ルート…ルートは非常にわかりやすい。支点となる残置ハーケンは意外と少ないがガバが多いし、不安な時はホールドにタイオフ。むしろ取り付きへのトラバースと横岳頂上直下の岩場に注意する。