八ヶ岳西壁で冬期クライミング⑨
3/7~8 南八ケ岳-大同心南稜 2級上(Ⅲ+)
メンバー:L玉谷和博(記)、SL坂本多鶴
小同心、とくれば次は大同心だ。小同心クラックから見たら雲稜ルート最終ピッチのドーム(Ⅳ、A1)がとても短かそうに見えたので、アブミでも持っていってついでに登っちまおうかとも思ったけれども、それは来年の楽しみにとっておこう。とりあえず、この南稜ルートも今までの最高グレードだし2級の卒業式の意味で計画しました。
3/7(土)松戸5:45-(JR)新宿7:00-(JR)茅野9:08/10:10=(バス)美濃戸口11:00/11:10 赤岳山荘12:00/13:00 赤岳鉱泉15:00[曇り]
3/8(日)赤岳鉱泉4:30~大同心稜~大同心の基部6:30/7:00 大同心南稜の取り付き点7:20/7:40~大同心南稜~終了点(ドーム基部)11:40 大同心ルンゼ上部13:00 大同心の基部13:20/13:40 赤岳鉱泉14:05/14:30 赤岳山荘15:30/15:55 美濃戸口16:25/16:38=(バス)茅野17:25/19:21-(JR)新宿21:38/21:41-(JR)松戸22:30[快晴]
登る前の大同心南稜は、どこか得体の知れないルートだった。短いし、ピッチグレードが低い(Ⅱ~Ⅲ+)ので、「とりあえず登っておこうか」ぐらいの気持ち。それと反面、ルートファインディングが難しいらしいとか、今までの最高のグレード(2級上)であることに一抹の不安を感じていた。
あれやこれや考えながら、今年に入って4度目(3/1吹雪のラッセルで撤退)の大同心稜を登っていく。マイナス12℃。カチンカチンに冷えきった朝、まだ真っ暗なこの時間がとても好きです。だって夜が明けるのを待ちながら歩くほうが、だんだん暗くなっていくタ方に焦って歩くよりも気分がイイにきまっているじゃないですか。
やがて大同心の基部に着く。この先には安定した場所がないからギアはここで装着した方がいい。「今回も快腸!」多鶴ちゃんが3週続けて同じところに雲古(マーキングともいう)を済ませると、なぜかここまで一緒に来てしまいましたのキジ坊(中野勉さん、千葉県連救助副隊長)と別れて僕らは南稜へと向かう。
南稜ルートは大同心正面壁の右側のスカイラインの裏側のフェースから、スカイラインのリッジを攀じるのだ。バンドには小同心のほうまでトレールがしっかり踏まれていて今までで一番歩きやすい。正面壁を右に回り込み、バンドを20mほど行ったところが取り付き点になる。この取り付き点はわかりにくくて、あまり右に行きすぎてしまうとただの雪壁登りになってしまう。せっかく来たんだからルートを忠実にたどってみたい。多鶴ちゃんが最近打たれたらしいリングボルトを発見。ここでハーネスにお互いザイルをつける…。緊張感と高揚感が増してくる、なんともいえない時間だ。「さぁて、行くぜ!」
1ピッチ目の傾斜の緩いフェースは玉リード。小石を埋め込んだような、八ヶ岳特有の集塊岩質がクランチナッツのチョコアイスバーみたいに見える。ただし、岩は脆くて浮き石が多いから要注意だ。そんなに難しくないピッチのはずなのに思うように体が動かない。寒さのせいか、それとも他のパーティーがいないという不安からだろうか。下でビレイをしている多鶴ちゃんはといえば手も手袋もバリバリに凍ってしまって、この先登れるかどうか不安だったらしい。凍った手で雪がかぶったホールドを掘り出し、氷のつまったクラックやベルグラをアイスバイルで叩き落としながら、タイオフでランニングビレーをとっていく。直上して左へ少し回り込んだらテラスがあり、大きな岩で確保する。
2ピッチ目は鶴リード、このルートの核心部だ。傾斜は強くなり、残置ハーケン類もないⅢ+のフェースを直上。厳しい体勢でも、岩角(と言っても小さいホールド)にインクノットで丁寧に支点を作りながら確実に攀じっていく。15m程で残置ハーケンが数本ある小さなテラスで一度ピッチを切る。
3ピッチ目(ルート図では2ピッチ目の後半部)は玉リード。核心部はまだ続いている。ルートは岩の弱点をついて右上ぎみに伸びていく。このあたりは残置ハーケンが適度に打たれ、導かれるように攀じる。体を振りながらのバランスクライミング。かなりの高度感で、体が空に飛び出していく感じ。「この解放感がたまらない」なんて人は言うけれど、極度の緊張感、そして恐怖感-。とにかく登らなくちゃ、登るんだ。ただそれだけ。
「やべえー、落ちるかもしんない。恐えー…」と思ったのはこの時だ。ザイルが岩の間に挟まったらしくて、重くて動かない。核心部なのに後ろに引っ張られるのだ。ピナクル下のテラスまではあと少しだったし、お互いの声が聞こえたのでなんとか抜けることができたけど、よくやりがちなミスだけに気をつけなければならない。あとはドーム下のテラスまで45mいっぱいにザイルを伸ばして雪稜を登れば登攀は終了する。まっ白な雪稜と、まっ青な空と、まるでクジラのような大同心のドームと。そして、ひと仕事終えた満足感がたまらない。すぐそこにある雲稜ルートは来年、正面壁の1ピッチ目から登ってしまおう。
「今年は人工登攀の世界へ行こうぜ!」「まず三ツ峠でアブミを錬習して、春は一ノ倉だ。夏は屏風だ、滝谷だ」「甲斐駒の赤石沢奥壁へも行こうよ。丸東にも行きたい」「秋は…冬は…」また新しい目標が生まれ、どんどん夢が広がっていく。愉快、痛快これがアルパイン。下りはサブルートを行く。アンカーにデッドマンを使って、急な雪壁を慎重に下降。大同心ルンゼ源頭部から大同心の基部へ。あれほど苦労して登ったのに、下りの早いこと早いこと。大同心稜を転がるようにして、フリダシまで駆け下っていった。
アルパインクライマーになりたい!冬期クライミングがしたい!僕らは昨シーズンから1月~3月の間、計9回に渡り、「八ヶ岳西壁で冬期クライミング」と題して八ヶ岳に入りました。冬の八ヶ岳は冬期登拳の魅力と厳しさを存分に教えてくれました。赤岳主稜、横岳石尊稜、中山尾根、小同心クラック、大同心南稜。八ヶ岳を「ゲレンデ」と呼んでしまうには、まだまだ抵抗があります。まだ入口付近でウロウロおろおろしている自分たちがそこにいます。もっと確実に、もっと強く、もっとスピーディーに!僕らの挑戦は始まったばかり。よく「山は逃げない」という。だけど本当は自分が山から逃げてしまう、挑戦することが恐くなってしまうのだ。そうなってしまわないうちに、そうなってしまわぬように…。次は谷川岳の一ノ倉沢一・ニノ沢中間リッジ~東尾根だ。
<注意>
- ルート…ルートファインディングが難しい、浮き石が多い、残置ハーケン類が少ない。
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