八ヶ岳西壁で冬期クライミング(冬期グレード2級)
3/27~28 八ヶ岳-阿弥陀岳北西稜
メンバー:L.玉谷和博(記)、SL.坂本多鶴
もっと難しいルートへ行くために今年は人工混じりのルートを登りこもうと、八ケ岳では阿弥陀北西稜と大同心正面壁雲稜ルートを計画していたのですが、悪天と体調不良で延期が続いてしまってモタモタしているうちに、もう季節も変わろうとしていた。
3/27(土) 松戸駅6:12-(JR)新宿駅7:02-(JR)茅野駅9:16/10:15=(バス)美濃戸口11:10/11:15 赤岳山荘12:20(小屋泊) [雨]
3/28(日) 赤岳山荘4:30 柳川南沢、阿弥陀北西稜入り口6:30 尾根上7:00 第一岩壁8:00 第二岩壁10:30 核心部A112:00 阿弥陀岳頂上13:00 行者小屋14:00/14:05 赤岳山荘15:15/15:50 美濃戸口16:20/16:35=(バス)茅野駅17:22/17:58-(JR)新宿駅20:10-(JR)松戸駅21:10 [晴れ]
土曜日が雨の予報だったので入山を半日遅らせ、雲稜ルートはあきらめて阿弥陀北西稜一本に絞ることにする。美濃戸口でバスを降りると雨。まさかこの時期に雪でなくて雨だなんて思ってなかったので、ザックカバーもレインコートも持っていない僕は早々に気が重くなってしまった。傘をさして美濃戸へと足早にただ歩く。この雨と陽気で雪はすっかり消えてしまい、まるで梅雨の頃のようだ。はたして北西稜にはまだ雪は残っているんだろうか?と心配になる。昼食はいつもの赤岳山荘で名物肉うどんを食べる。
「たいしてうまくないズラ。山では何食べてもおいしく感じらぁね」とは山荘のオバちゃんこと高野蔦美さん(推定49才)。そうこうしているうちに外はドシャ降り状態に。「北西稜に行くんなら、赤岳鉱泉から行くのもここから行くのもそんなに違わんよ。ウチに泊まっていけばいいら」オバちゃんのたくみなセールストークに誘われて、本日は赤岳山荘泊まりとする。
翌28日。あまりに寝心地がいいので寝過ごし、3:30起床。ラーメンをすすって4:30に出発。ヘッドランプをつけて柳川南沢をさかのぼり、2時間のアルバイトで阿弥陀北西稜の入口へ向かう。心配していた積雪も、南沢大滝の手前あたりからようやく雪山らしくなってきた。摩利支天沢(大滝への入口、緑のビニールテープ有)を過ぎて、尾根の右側から登るルート(赤テープ有)を見送り、しばらく進むと尾根の左側から登っているトレース(赤と黄のテープ有)がある。これが北西稜の入口だ。前回僕らはルートを誤り、北稜を登ってしまった(北稜の報告参照)が、なんとプロガイドの青木昭司さんも先週同じように間違えたらしい。末端から北稜へ登ったのは初めてだと言っていた。暗い時間に特に行者小屋からアプローチする場合は要注意だ。
深いトレースを追って南沢から30分で尾根上へ出て、さらに40分ほど樹林帯を行く。そして森林限界を越えると、ようやく鋭角的でゴツゴツとした北西稜が現れた。すぐ左側には北西稜とは対照的に緩やかで女性的なラインの北稜が見えている。ここでギアをつける。先行は1パーティー、後方に1パーティー。マイナス7.5℃。前回2月14日より、20℃ちかくも暖かい。
一般的に3月の春分の日までを冬期クライミングとされているので、もう残雪期なのだ。他のパーティのリーダーが言う。「こんなに穏やかな天気の日に登ってちゃあ、アグレッシブなクライミングにはならないなぁ~」確かに、困難を追求するのがアルパインクライミングだけれども、いつもアグレッシブ(攻撃的)でピリピリしていて、ある種自虐的で…、そんな山行ばかりでなくてもいいんではないかとも思う。山はやっぱり晴れた日に気持ち良く登りたいものだ。せっかくの憧れのルートに登る時に、吹雪では。ただ、もしもの時のために経験としては必要だけども…。
第一岩壁の手前、2ピッチの所でザイルを結んでビレイ。雪の状態がイヤラシく、摩利支天沢側から巻いて第一岩壁の基部へ。先行パーティーは、ここを第二岩壁と勘違いしたらしく左側の雪壁から巻いている。第一岩壁は約5m。出だしが立っているし、ランニングビレーが取れないのでイヤな感じだ。岩は表面が凍っていてツルツルしている。ここは浅いクラック沿いに多鶴ちゃんが軽やかにリードする。つづくピッチはナイフエッジの岩稜帯から第二岩壁の基部へ。ハーケンが多いので助かるけど、なんせ細いし岩がモロそうなので緊張した。
第二岩壁は正面を避けて、一般的に登られている側壁から行くことにする。まずは岩壁基部から北壁側(左側)へ延びる細い雪の外傾バンドを25m。ここでピッチを切り、今度は右上バンド(バンドは2本あるが、我々は上のバンドに乗った)をA0で強引に上がり、10m程行くとハーケンが1mおき(!!)に連打された凹角下に出る。
ここが北西稜の核心部(Ⅳ、A1、15m)だ。先行のリーダーがちょうど最上部へ抜けるところで苦労していたが、フリーで越えるとガッツポーズで消えていった。ここは玉リード。支点が甘いので全てのハーケンにランニングを取りながら登る。中間部まで行くと垂壁になり、ホールドもアイゼンの爪を乗せるスタンスも細かくなってきたので予定通りアブミを出す。3~4段上がり、幸せのガバを掴めば終了。やったぜ!!多鶴ちゃんも「うしろのパーティーを待たせちゃ悪いから」とアブミを使ったけど、彼女ならきっとフリーで越えられただろう。
ここからはノーザイルでも行けるが、一応コンテにする。御小屋尾根を下っていく登山者が見えた。摩利支天も、頂上ももうすぐだ。阿弥陀南稜が見えてきた。北稜が、赤岳主稜が、中山尾根、石尊稜が、小同心、大同心が…。これまでに登ったバリエーションルートが目に入ってくる。吹きわたる風が気持ちいい。季節は確かに変わっていた。僕らも少しは変わったのかもしれない。「八ヶ岳西壁で冬期クライミング」シリーズも今回で11回目。ようやく八ヶ岳がゲレンデとして思えるようになってきた。
来年は大同心正面壁雲稜ルートに挑戦します。
<注意>
- アプローチの概念図は阿弥陀岳北稜を参照。
- アブミはパーティーで1台あればいい。
- 北風がモロにあたる北西稜は、厳冬期には特に凍傷対策が必要。
- 帰りの電車のお供(酒、つまみ)は茅野駅ビル内のオカジマスーパーで買い出すと良い。駅ビル内の“養老の滝”もよろしく。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。