<山行報告書> アルパインクライミング
8/18~19 南アルプス 第4尾根から北岳バットレス中央稜
メンバー:L玉谷和博(記)、SL坂本多鶴
雨、雨、あめ・・・。週末になると、うんざりするほど毎週のように決まって雨だ。欲求不満がたまって、いいかげん爆発しそうだ。あぁ、青空に向かってぐいぐいと登っていく爽快なクライミングがしたい!!というわけで、久しぶりの北岳バットレスなのです。
日本最高処にある岩場。1948年に登歩渓流会の松濤明が初登攀。1958年には奥山章、芳野満彦、そして吉尾弘さんらが積雪期に初トレースして、RCCⅡ発足のシンボルにもなった北岳バットレスの中央稜…。再来週の下見(倶楽部のメンバー全員で4尾根に登る予定)も兼ねて、3年ごしの中央稜に行くことになった。
8/17(金) 松戸駅22:00=(JR)新宿駅23:50=(JR)
8/18(土) 甲府駅1:59=(タクシー)広河原3:15/3:40 二俣6:10 下部岩壁取付7:50/8:20~5尾根支稜、dガリー~4尾根取付9:50~バットレス第4尾根 枯れ木テラス12:30~懸垂~中央稜取付13:20~バットレス中央稜~終了点16:40/16:50 北岳頂上16:56 肩の小屋17:20 快晴のち濃霧[小屋泊まり]
「ガスッていても、やっぱり北岳バットレスのクライミングは爽快なのです。」
眠い…。北岳バットレスに来るときはいつもそうだ。入山した日に登ってしまう、というパターンに決めてからずっと。夜行~タクシーと乗り継ぎ、広河原からまだ真っ暗闇の山道をヘッドランプを頼りに歩き出す。寝ないで3192mまで一気に登ろうってんだからキツイはずだ。しかも、本格的な山行は約1ヶ月ぶり(ずっと雨だったので…)なので、運動不足で足が重い。ボヤ~っとして眠ってる身体を引きずって大樺沢をひたすら登る。もう何回この道を歩いたことだろう。一般ルートも含めて、3年前(?)に初めて登った4尾根、上部フランケ、下部フランケ、ピラミッドフェース、Dガリー奥壁…。4尾根やピラミッドフェースには何度も来た。飽きることなく何度も何度も通うのは、確かにアプローチは長く遠いけど、余りある爽快なクライミングが楽しめるからだ。
二俣から見上げるバットレスは、朝日に赤く輝いて美しい。思いが天に通じたか、今日は久々の快晴だ。まだ一面にビッシリと雪渓が残る大樺沢を左手に眺めながら、バットレス目指してホキホキと登っていく。C沢の出合で八本歯のコルへと続く一般道と分かれて、C沢の右岸につけられた踏み跡に入っていく。ようやく下部岩壁に着いたのが7時50分。Bガリーの2ピッチ目にいるクライマーのコールが聞こえる。さっそくギアをつけて僕らも出発しよう。いつのまにか一面ガスッてきた。今回のメインは中央稜なので、アプローチの早い5尾根支稜から取り付く。3ピッチで抜けて、1ピッチdガリーにザイルをのばす。そこから、ピラミッドフェースを横断するバンドを通り、さらに3ピッチ、右に回り込んで4尾根主稜の(下部)取付点に達する。
4尾根は人気ルートなので、渋滞してないか?と心配していたけど、拍子抜けするぐらい静かなもんだ。そこから2ピッチ登り、ルート図上の4尾根の取付点へ。4尾根自体はもう登り慣れている(7度目か?)ので問題はない。6ピッチ。コーナークラックから易しいフェース。「白い岩のクラック」~リッジを通り、3mほどの垂壁を越えて細いリッジをいく。時おり霧雨の降る濃いガスのなか、堅い岩壁を気持ちよくグイグイとザイルをのばしていく。今は無き「マッチ箱のコル」からDガリー奥壁側へ10mほどの懸垂下降。そして、クラックの走る赤いフェースから、左の凹角をつめていくと「枯れ木テラス」だ。
時計の針は12時30分。目指す中央稜に行くには、ここから4尾根と分かれ、いったん右側のCガリーに下りていかなければならない。今にも泣き出しそうな不安定な空模様。井戸の底のようなCガリーに一度下りてしまったら、(もう撤退はできないので)中央稜に登るしかないのだ。パートナーはけっこう疲れちまったみたいで、4尾根の終了点へ向かう他のパーティーをちょっとうらやましそうに、ヘコんだ顔で見てる。声をかければ、「今日はやめとこうか?」と、どちらともなく言ってしまいそうだから目を合わさないようにしていた。
45mダブルで、途中に空中を交えた懸垂下降。もう後戻りのできない、奈落の底に下りていってしまうような感覚だ。20mほど下って、また懸垂の支点があったので、ピッチを切ってしまったが、これが失敗だった。グズグズで非常に脆いガリー(Cガリー左俣)。上からの落石を避けるために場所を移動しようとしたその時、ちょっと触れた冷蔵庫大の岩がズズッと動いて「ガラガラ~ガッシャ~~ン!」と、大音響をあげてあっというまに転がり落ちていった。一瞬、ゾ~~~っ。あんなのがもし当たったら…。Cガリーは非常に危険だ危険だ危険だだだだだ!(俺は民子か?)さらに20mほど懸垂するとCガリー右俣に降り立ち、そこから左側の壁ぞいに30mほどガリー内を登り詰めた所が、ようやくバットレス中央稜の取付点になる。
13時20分、気合を入れ直してザイルを結び合う。中央稜の1ピッチ目は玉リード。25m、Ⅳ+。暗い感じの立ったフェースを少し右上ぎみに登り、ハング下の悪いバンドを左ヘトラバースしていく。ちょっとイヤな所で、はからずもヌンチャクを2度も掴んでしまった。2ピッチ目 (25m、Ⅲ)鼻歌まじりで鶴リード。ガレガレだと思っていたが、すっきりと堅く立ったリンネ(ルンゼ)にザイルをのばす。次の3ピッチ目は、第ニハング・第三ハングと豪快に乗っ越していくルート中の核心部だ。でも、このままだと多鶴ちゃんはかわいそうなことにⅢ級のピッチを2回登るだけで終ってしまう。そこで、(せっかくのオイシイとこだけれど譲ってあげよう!)と、切れ切れのバンドを右上(Ⅲ、20m)した後、「大ハングルート」との合流点であるハング下のレッジでピッチをきることにした。パートナーは「え~っ!マジかよ~っ」と、とても嬉しそうに涙目になってる。
その4ピッチ目(IV+、40m)はバットレスらしい明るくって開放的なピッチだ。ハングの切れ目を右上して、(ハングッぽくない)第三ハングを越えたあと、さらに右上してリッジから傾斜の落ちた中央バンド下まで。支点もガバも、わりと多いから思いきっていける。「青空じゃないけど最高---!気ぃ持ちイイなぁ。」このピッチを登るだけでもここまで来た甲斐があった。
つづくピッチ(Ⅱ~Ⅲ、40m)は、ぐっと傾斜が緩くなって広いリッジから凹角のハイマツでビレイ。最後は崩れやすい凹角内を登って終了点へ。下部岩壁からのトータルで21ピッチ。時折、霧雨の降る悪コンディションのなかザイルは濡れて重く、身体はけっこう疲れてるけど、なかなかの充実感があって久々に楽しいクライミングだった。登攀終了は16時40分。ザイルをほどいて、そこから頂上まではもう目と鼻の先である。
北岳の頂上は濃いガスのなか---。僕らはもう何度この頂を踏んだことか。春・夏・秋・冬…、四季を通じて幾度となく歩いてきた。ここは一番多く踏んだ、最も愛着のある頂かもしれない。「今度は冬のバットレスに登ってみようよ。」と、そんなことをつぶやきながら僕らは頂上をあとにした。
8/19(日) 肩の小屋7:00 広河原ロッジ9:30/11:00=(バス)甲府駅13:02/ 14:02=(JR)新宿駅15:40/15:45=(JR)松戸駅16:30 快晴
「僕らの好きなバットレス。また来ます。その時は…」
きのうとは打って変わって、ドピーカンの快晴。大樺沢から見上げるバットレスはとってもなだらかで、穏やかに見えた。「あれが4尾根。そして、あれが中央稜…」『バットレスという素晴らしいネーミングで、小島烏水により紹介されたことは幸運だった。これが北岳東壁とか大樺沢奥壁だったらと思うと…』と以前、雑誌「岳人」に廣川健太郎が書いていたけど、ホントにそう思う。バットレスという言葉は独特な響きをもっている。
なんてったってバットレス。バットレスといえば北岳なのです。そして2人とも心の中で思っていた。「今度みんなで来るときには、きっと晴れたらいいね」と。