谷川岳 一ノ倉沢 烏帽子沢奥壁
7/27~28 南稜フランケルート(5級下)
メンバー:L玉谷和博(記)、SL坂本多鶴
とにかく、無性に岩をガシガシと登りたかった。先々週は、時間切れで変形チムニーを敗退…。中央カンテを完登したリン・キジコンビがとっても眩しく見えて羨ましかった。そして先週の小川山では、わずか数mのスラブがまったく登れず、10a・11aを次々にオンサイトしてしまう新人たちを見て驚きとともに嫉妬を覚えた。いったい俺は何をやっているんだろう。落ちるのを恐れていてはフリークライミングは上手くはならないという。だけど、やはり落ちるのは恐い…。落ちたくない。登りたい。とにかく青空に向かってグイグイと気持ちよくザイルをのばしながら攀じりたかった。
7/26(金) 松戸21:15=(中野さんの車)一ノ倉沢出合24:00 [テント泊まり]
7/27(土) 一ノ倉沢出合7:05 鎌形ハング(南稜フランケ取付点)9:30/9:40~ 南稜フランケルート~南稜の馬ノ背リッジ(南稜フランケ終了点)13:30~南稜~ 南稜終了点14:30/14:40~懸垂下降~中央稜の基部15:30/15:40一ノ倉沢出合17:00 晴のち曇り [テント泊まり]
7/28(日)一ノ倉沢出合8:25 ロープウェイ駅9:05/9:48 =(バス)水上駅10:05/10:38=(JR)上野駅13:55=(JR)松戸駅14:30 快晴
「ATCとハーケンとエイト環は、俺の代わりに墜落していったのか?」
とても暑くてテントから逃げ出した。東京では35度を越えようかという日々が続いている。それに比べれば少しは涼しいのかもしれないけど、それでも暑い!部分的にかなり痩せてはいるがなんとか雪渓づたいに本谷をアプローチして、テールリッジに取り付く。
衝立岩に3パーティー、南稜フランケにも2パーティーがすでに登っているのが見える。鎌形ハングの下でザイルを結び合い、9時半に鶴リードで登攀を開始する。
1ピッチ目(IV+)は直上(やや右上)ぎみに15mほど行き、カンテの手前のビレイ点で一旦ピッチを切る。ルートは判然としない。というか一見どこでも登れてしまいそうだけど、「ルートを間違えると極めて危険な状況に陥ることになる。」と、トポに書いてあるので慎重に登る。カンテを越えると右上にビレイ点が見える。トラバース~直上~トラバースでビレイ。(15m、IV+)
本来は岩の弱点を探しながらルートファインディングしなければいけないのに、ついつい残置ピンファインディングしてしまうが、狭い範囲にルートが交錯しているのでどうしても惑わされてしまう。
次の3ピッチ目(40m、IV+)。トポには「草付の凹状を左上、バンドを右へ」とあるが、ここも判然としない。ハングに向かってフェースを直上~ハング下でビレイ。
核心部である4ピッチ目(40m、V+)は、多鶴先輩の策にハマり玉リードになる。トポには「かつてこのルートの3ピッチ目(V+、A0)は日本で最もむずかしいフリーのピッチとされ、VI以上のピッチが続出した現在においても充分その価値は色あせてはいない。それは全体を通してプロテクションが少なく、ルートファインディングも難しくて墜落は絶対に許されないという厳しさによるものであろう。」だなんて書いてあるよ!おいおい・・・。
まずは真横にトラバースを試みるも、カンテの先は行けそうにないので一旦戻ることに…。おまけにナイフブレードを1本落としてしまった。
多鶴ちゃんの顔を見ると、不安そうに「なんかヤな予感がすんのヨ。天気悪くなりそうだし(そうかぁ?)今日はここで降りるぅ?」とか言ってる。いやなことに、『カラン!カラーッン…』と落ちていくハーケンを眺めながら、先日の小川山での多鶴ちゃんの大墜落をフト思い出してしまった。
頭上のハング下のピンにランニングビレーをとり思いきって右上し、カンテを回り込む。変形チムニーがすぐ横に見えている。急なフェースを大テラス目指してやや右上ぎみに上っていく。
岩は堅い!小さいけれどホールド・スタンスは確実に見つけられ、自分でも意外なほど冷静に、しかもグイグイと登っていく…。10m…、20m…と、長いランナウトがのびていく緊張感がなぜかたまらなく気持ちがいい。墜落は絶対にしたくない。でも、なぜか落ちる気がしなかった。
大テラスで一息入れたあとの5ピッチ目(V)は鶴リード。ここも残置ピンが少ない。左上~急なクラック~左ヘトラバースしたあとフェースへと続いて、45mいっぱいでビレイ解除。しかしこの時に2度目のトラブル発生、うっかりATCを落してしまった。
6ピッチ目は30m、IV-。途中に南稜の馬ノ背リッジへのびる草付バンドがある(トポでもなぜかこのあたりから南稜へ逃げていることになっている)けれど、見上げれば南稜フランケ(側壁)のフェースは「もっと登れヨ!」と言っているように、まだまだ上へと続いているし、ここでこの気持ちのいい登攀が終ってしまうのがとってももったいないような気がしたんだ。
そんな訳で、南稜フランケの最終7ピッチ目は、頭上の大きなハング下までフェース~凹状の草付~左へ急なトラバース(20m、IV-)を行く。
残置ハーケンやブッシュはあるし、ガバもあるけれど、ハング下のトラバース部分は濡れていてけっこう恐い。(事実上、ここが最大の核心部だったように感じた。) そうこうしている時に今度は多鶴ちゃんのエイト環が、これまたけたたましい音をたてて烏帽子スラブに落ちていった。
単なる不注意とはいえ、こんなことは初めてだ。多鶴ちゃんが「なんかエイト環もハーケンもATCも、私たちの代わりになって落ちてったみたいだよねぇ・・・。」と、つぶやいた。
そして、濡れたガバを掴んで「エイヤッ!」と足を伸ばすと、見覚えのある馬ノ背リッジに飛び出した。そこからさらに南稜の最上部、凹状クラック(10m、IV-)と垂直のフェース(20m、IV+)の2ピッチを、余韻を楽しむように登って終了。南稜を下降した。
変形チムニーのようにヌルヌルではなく、中央カンテみたいにボロボロでもない。まして、衝立正面のあのロシアンルーレット的なヒヤヒヤはない。けっこうモロイと言われる一ノ倉にあって岩は竪く、ひたすら爽快なフリークライミングを楽しめました。
<特記事項>
- ルートファインディングが難しいけど、それがまた楽しい。一部、交差するYCC左ルートを絡んで登ってしまったようだが問題はない。 最終ピッチは、ぜひハング下まで登るべし。(お薦めです。)