戸隠連峰 本院岳ダイレクト尾根
2003年3月21日(金)~24日(月) 3泊4日 L:坂本多鶴(記)、SL:玉谷和博
3月21日(金) 晴 -ダイレクト尾根D2とD3のコルまで-
上野駅6:30(長野新幹線)長野駅8:04/30(タクシー5800円)上楠川橋9:10/30 ダイレクト尾根取付き10:50D2とD3のコル15:30<幕営>
朝出なのに新幹線は速い!ウトウトする間もなく着いた長野駅は、駅ビルのすぐ裏手に山が見えるという不思議な光景だ。今回のように新宿駅からではなく上野駅から長野県に入るのは我々にとって初めてのことで、もちろん、戸隠連峰も初めてなのであった。
しかし、駅に降りても山の格好をしている人がいなくて、なんだか場違いな感じだし、タクシーに乗って、戸隠山域に向かっても、雪の気配が全くない。何かまずい雰囲気だなあ…と思っていると、ひと山越えたあたりで、やっと道路脇にバームクーヘンのような雪が現れはじめた。
上楠川橋でタクシーを降り、橋の脇にある公民館裏の登山ポストに計画書を入れる。今朝早くP1尾根に二人組が入っているようだ。さらに、軽荷の男女パーティがダイレクト尾根に登ると言って、先に入っていった。
公民館でトイレを借りて、我々も出発。少し歩くと除雪してない雪道となる。沢沿いに歩き、二三度対岸に渡り返すが、沢は水量も少ないし幅も狭いので、渡渉の苦手な我々でも問題はない。
途中、左に上がっていくP1尾根のトレースと別れると、あとは先行ふたりだけのトレースとなった。しかし、彼らは速い!二俣で左に入り、そのまま沢沿いに進むと、ダイレクト尾根の末端で、木に赤テープが巻いてある。
いきなりの急傾斜を登るとカラマツ林のなだらかな尾根になり、しばらくの間は自由に尾根上を歩くと、白樺台地。天気が良かったのもあるかもしれないが、この場所はとっても素敵な幕営ポイントであった。そして、この先、ダイレクト尾根はいくつものピークを連ねて、本院岳頂上に突き上げていく。
白樺台地からしばらく登ると、ピーク群の始まり、D1だ。まさしく粒あんボタモチのような岩を左から巻いてルンゼをコルまで登る。南面なので雪がグサっぽい。下部はなんて事なかったのに、コル手前が急で灌木をつかみながら登る。
続くD2は、八ヶ岳と同じような集塊岩を10mほど直登し、ブッシュ帯を左上へ抜ける。岩は見ためより傾斜があり中間支点も取れないので、玉ちゃんが空身でまず1ピッチ登り、玉ザックと私が続いて登ったが、岩を登ったあとの一歩のトラバースがバランス悪く、いやらしかった。
この日はD2とD3コルの手前の樹林帯に幕営する。一応は予定通りである。我々は1-2人テントだけど、4-5人用でも張れそう。夜はラーメン、実は今回は朝も夜も全てラーメンなのでした。しかし、いつもは二人で1個なので2個にしてみたが、鍋にいっぱいになったラーメンを見ただけで食退してしまい、結局1個でよかった。もちろん酒はなし。
3月22日(土) くもり -ダイレクト尾根プラトーまで-
D2とD3のコル6:00 プラトー14:00<幕営>
今日は予報通りに曇、陽の光があたらない方が雪がグサグサにならないし、ちょうどいいや、と思う。明るくなり始めたのでテントを撤収して出発する。
D3はそのまま登り(記憶にないピーク)、D4とD5は左から一度に巻いてコルに戻る。D6の登り、急斜になってきたところでザイルを出し(ちょうど太い木がある)、いいとこを選びながら主尾根に出る。
ここからツルベ。D7は、基部の草付バンドを岩をホールドにして左に2mほどトラバース。ブッシュ混じりのルンゼを登り、雪面を右上しながら主尾根に戻る。
雪はキノコほど張り出してはいないのだが、曇と言えど雪のしまりが今ひとつで、足やピッケルのシャフトが決まりにくい。ザックを背負っていると乗越しがしんどいので、尾根に出る手前ではザックを降ろして、それを踏み台にして乗越した(アイゼンの歯がちびているので、そのまま乗っても大丈夫)。
この先のコルへの下降は5mほどだが、短いけど立っているので、タブルアックスで降りる。
D8は離れた位置から見ても急だったのだが、D7よりも腕力を使うブッシュ登りであった。中間支点は灌木で取れるが上部に行くほど急で、最後はまた雪になり主尾根に出る。
この先、懸垂20m(木にシュリンゲの支点あり)でギャップに降り、大休止。右手にはキノコ雪のついた側壁が広がる。結構疲れた。そんな感じに気づいたのか、次のピッチを玉ちゃんがリードしていく。
雪壁を登り返すと広い尾根になり、絶好の幕営地。八方睨側には1段低いプラトーがあり、先行隊はその段差を利用した横穴雪洞に初日に泊まったらしい。スゴいねえ~と感心する。
そのふたりがP1尾根を下降していくのが見える。私たちはまだまだダイレクト尾根の真っ只中だ。しかし、D6からはひとつのピークを越えるのに時間がかかったし、 D 7とD8のブッシュ登りで腕が大変疲れてしまった。
時間はまだ14時だが、集中力が続きそうにないので、ここで幕営しようと玉ちゃんに言う。テントに入って、コピーしてきた岳人の報告などを読んでみる。ここまでが核心と書いてあるが、本当にそうなのだろうか。
3月23日(日) 快晴 - 本院岳へ抜けて… -
プラトー6:00 本院岳15:00/30本院岳からの尾根上17:30<幕営>
今日で三連休も終わり。たっぷり寝たし、天気も良い。もちろん今日中に下山するつもりで出発する。眼前には最終ピークであるはずのD9がど~んと聳える。核心が終わったっていうワリにはすごい威圧感で、いったいどこから越えるんだ… という感じだ。
雪稜を基部までつめていく。まずは右の雪壁を玉ちゃんが越えていくが、やはり雪がしまっていないので重荷ではバランスが悪そうだ。雪の段々を越えた先で交代。
ここから右にトラバースしていくとボルトやハーケンの連打された岩のトラバースになる。オーバー手袋をはずしてジワジワと進むが結構恐くて、中間支点をとりまくる。岩の終了点はブッシュ帯、右上の灌木に手が届けば乗越せるのに、全然遠いし、ザックを背負っているので身体が持ち上がらない。足元のグサ雪も崩れるのみ。
玉ちゃんゴメンとザックを残置し、フリークライミングのような感じでやっと身体を持ち上げて必死に灌木を掴む。ここからすぐ右の幅1mほどのルンゼに移って直上し、ビレイ解除、支点をとりすぎてシュリンゲがなくなり、ピッケルのリストループを使って確保支点を作る。
オーバー手袋はゴムが切れたのか、どこかに行ってしまって、手袋はビショビショ。玉ちゃんが何とかザックをルンゼの入り口まで持ち上げてくれたので、ザイルをフィックスして取りに戻る。この先もう1ピッチでD9ピークに出たが、快晴のため、雪は結構グサグサ。こっちの方が核心じゃないか… 、昨日の腕の状態で登らないで良かった…、残りのピナクル群は大丈夫なのか…、今日中に降りれるのかなあと不安になる。
そして、連なるピナクルの最後、ここを抜ければ本院岳の頂上、という基部にたどりつく。
左からか右からかと悩んだ結果、先行が登ったであろう右から取り付く。玉ちゃんが数m登ったが、一段乗越すところがバランスが悪く、ザイルー本とテントを背負ったままでは引かれるため、私が空身で登ることになる。
同じように数mほど登って、右側を見ると、D9と同じようにルンゼがあり、先行はそこを登ったようだ。ルンゼ側に入ると、足場の雪が崩れてズルリと滑った。一段乗ればルンゼ状なのだが、足元がどんどん崩れて乗越せない、ここはザックあげるの大変だなあ… と思う。なんとか腕力で乗越し、ルンゼを登って左に抜けると主尾根に戻った。
その先、雪壁を登ると傾斜が緩そうだったので、そこで確保しようと登ったが、これが失敗だった。ザイルが雪面にくいこんで荷揚げしようにもなかなか動かない。
さらに玉ちゃんがルンゼ側に荷物を移動する途中、足場が崩れて逆さまになってしまったそうで、引き上げてくれ~と叫んでいたのだが、まさかそんな状態になっているとは思わず、待ってくれ~と雪壁をいったん下降して、確保支点を作り直した。
幸い玉ちゃんももとの位置に戻れたようで、確保支点もロープマンを使ったせいかザイルがスムーズに動くようになった。玉ちゃんが登る前にその雪壁でビレイしてね、と言ったのを上まで登ってしまった私のミス、ごめんね。
この登りでも結構時間がかかってしまった。少し休んで、最後の1ピッチ。溶けた雪で身に着けているものは湿っているし、手袋は絞れるくらい濡れているし、登り返したり荷揚げしたりでクタクタだし、傾斜がなだらかになって頂上が見えてきたときには、やっと着いたよ…と涙が出そうになった。
玉ちゃんが登ってきて、本当にお疲れさまでした!の握手。今日は帰れそうにないけど、なるべく進んでおこう、とトレースのない八方睨方向に下降を始めた。
下降する途中で標識を見つける。これなら主稜線へのトラバース地点にも標識があるんだろうな… と思いながら、この日は見つからず、17時に行動終了。
暖かいといいながらも、濡れちゃったので身につけているものが凍りはじめている。ハンマーで氷を叩いて、アイゼンやスパッツをはずし、テントの中へ。家に電話して、難しいところは抜けたけど、まだ山の中で帰れない、と伝える。
玉ちゃんは最後のピナクルの荷揚げで相当疲れたみたい。ヤッケもズボンも靴下も濡れているけど、ボンベは2泊分で2個しか持って来てないから乾かすほどないし(さらに私のボンベ満タンじゃなくて…)、ラーメンはまだあったけど、そんなにお腹も空いてないから、雪をひとかけら口にほおりこんで、シュラフにもぐりこむ。とにかく早く横になりたかったし、長い時間寝れば、濡れたものも着干しで乾くでしょ… と思って。
3月24日(月) 快晴 - 八方睨から下降 -
幕営地6:30 八方睨14:00 百間長屋17:30 戸隠奥社18:00 車道19:00/10 長野駅19:50/20:25(長野新幹線)上野駅22:10
3時にセットしてあるはずの目覚ましの音が聞こえず、4時に起床。爆睡してしまったみたい。今日も天気は持ちそうだ。今日は絶対に降りよう!と準備するが、昨日濡れたギアは半分凍った状態。ハーネスを何とか履いて、ザイルは無理矢理ザックに押し込んで出発。
主稜線へのトラバース地点を探すためにいったん登り返したが、急な雪庇で下降出来ない。再び尾根を下降しながら、雪庇の小さいところを探す。
やっと下降出来そうな場所を見つけて、主稜線の鞍部目指してトラバース開始。ここまでですでに2時間近くかかってしまう。さらに、やっと主稜線に乗れたのに動物の足跡しかなく、朝からのラッセルが続く。
稜線の東側は雪庇が張り出し、西側はなだらかな斜面。雪庇の上はアイゼンが効きそうなのだが、ときたまバスンと鈍い音がするし、とても近寄れない。
なるべくブッシュの際を歩くのだが潜る。山の斜面が笹で覆われているので、中がグサグサになっているらしく、いったん潜り始めると股までだ。
アイゼンが効きそうかなあと乗り込むと雪板が割れて、ガックリ。地図で位置を確認しながらも、今日中に帰れるのかな… と玉ちゃんがつぶやく。
それでも八方睨の黒いピークがだんだん近づいてきた。ここも最後の方はブッシュ登りであった。
やっと下山路に入れる…と思いながらも、険しそうな尾根。鎖場にシュリンゲを残置したり、立ち木を使いながら懸垂下降し、蟻の刃渡り付近はツルベで進む。途中古い看板があったので、その支尾根を下降するのか?と少し下ってみたが、下部が急そうなので戻る。
とにかく細いリッジを進むしかないのだ。左側は雪庇だし、右はブッシュみたいだし、狭いところは幅が20cmくらいで両側が切れ落ちていて、落ちたら宙吊りだよ…と非常に緊張した。
次のピッチは左の雪斜面をトラバース、玉ちゃんがテン場のあとだ!と叫ぶ。久しぶりに人の気配を感じて、あとはトレース沿いに下れるかな… と思いきや、彼らは西窟尾根のピストン組らしい。
しかし、懸垂の支点が残置されていたので、それを借りて尾根末端に向けて下降し、そのまますぐ南側のルンゼに入って立ち木を使いながら下降するが、雪がグサグサ。
ザイルが濡れて重いので、シングルにして順番にセットしながら降りる。やっと百間長屋の砦の基部まで下降し、グサ雪をトラバースして最後の尾根上にたどり着いた(あとで、ここもロープ出せば良かったね、と話した)。
家に電話して下界が近くなってきたと伝える。もうザイルはいらないよねってザックにしまう。ところが尾根に乗って向こうを見ると、キノコ雪でコブコブ。こりゃザイル出さないとダメだ、沢沿いに下降して反対側に見える尾根を下降しよう、と広くてなだらかな沢からの下降を開始した。
途中ヘッデンを出しながら地図を見ると、沢の終点がちょうど奥社だ。このまま下降すれば大丈夫だよ!と玉ちゃんに伝える。快適な下降、ああやっと下界に戻れると思った。
雪に埋もれた戸隠奥社のまわりには、たくさんの足跡。急に人が感じられるようになってきた。ここから雪の参道を通り、除雪された車道に出たときには、もう暗くなっていた。
途中、キジ坊から大丈夫か?と電話が入った。もうすぐタクシー呼んだとこに着くよ、と伝える。もう雪稜はいいよ~と玉ちゃんがわめく。残りの人生分のラッセルした気分だよね…、まだ早いか・・・。呼んだタクシーに乗り込むと、まわりの景色がどんどん変わっていく。やっと下界に戻ってきた、街の灯りを見ながらすごい人恋しい気分になった。
今回は初めての山域なのに、調査不足でした。雑誌やインターネットでダイレクト尾根やP1尾根の情報は取得したものの、下山ルートに選んだ八方睨に関する情報は一般登山道だしなぁ…と何となく記憶に入れた程度であった。
P1尾根から降りれば、トレースはあるものの、登ったことがないルートで懸垂下降を交えるので大丈夫かな…と思ったが、P1から下降した方が格段に早かったと思う。
ただ、本院岳に抜けたのが、日曜日の夕方近くだったので、下山自体は月曜日には変わりはなかっただろうが、八方睨を下降に選んだことで、ラッセルとルートファインディングでかなりの時間と労力を使ってしまった。
天候に恵まれたからいいものの、早く下降するための情報収集を怠ってしまったことを反省。連絡は入れていたものの初めての山域だったので家族にも心配をかけてしまった。ダイレクト尾根自体も自分たちだけで登ったら、もっと時間がかかったと思う。
でも、その反面、自分たちだけでラッセルやルートファインディングした部分ができたし、行動中に他のパーティと会話することもなく、どっぷりと山に浸れた。そして、戸隠連峰… 、雪とブッシュ、これが日本の雪山なんだ…と思った。
しかし、人里は近いはずなのに、登っても降りても、山また山、雪また雪、という感じで、全く下界に近づいていかなくて、自分としてもパーティとしても最終的な核心は八方睨からの下降だったかもしれない。
とにかく、精神的にも体力的にも疲れたけど、今まで一緒に登ってきたパーティシップが試される山行だったな…と思ってます。しかし、GWも登らなくてもいいよね、なんて言ってたけど、一週間も持たなかったよね。これからも、地道に経験を積んでいこうね。
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