明星山P6南壁 フリースピリッツ
2003年10月18日(土)~19日(日) 1泊2日 L:坂本多鶴(記)、SL:玉谷和博
P6南壁の真ん中をフリーで登るこのルートは1979~80年、森徹也、宗行孝之助、中田幸三らによって開拓され、ピッチの中にⅥ級を含む、当時のいわゆる「Ⅵ級神話」を打ち崩したルートであった。「ぼくたちのルート図を見た人は、まずそのグレードに驚くと思うけれど、Ⅵは単にVの次にくる級数だ。このことを多くのクライマーは忘れてしまっているだけなんだ… 」(岩と雪78号、フリースピリッツ開拓の記録より)
17日(金) 上野駅23:33(急行能登)糸魚川駅4:45
先週の帰り道のこと、「来週はフリースピリッツ登ろう!」と玉ちゃんに言ってみたが、「無理だよ… 」全く乗り気じゃない。しかし、家に帰ってからも登りたい気持ちは強まるばかり。どうしようかなぁ… と悩んでいたが、さすが相棒、週明けの朝「登りに行こう!」とメールが届いていた。今回は体調も万全。急行能登に乗り込み、ワンカップ2本飲んで、ガラガラの車内で爆睡する。
18日(土) 糸魚川駅(タクシー約6500円)ヒスイ峡キャンプ場5:30/6:15 取付 7:15 終了点15:00キャンプ場17:30<幕営>
糸魚川駅でタクシーに乗ると、運転手さんに「先週も来ましたね?」と聞かれ、登れなかったのがバレたみたいで「いえいえそんな…」となんだか恥ずかしくなった。キャンプ場でテントを張り、明るくなるのを待って出発する。今回は荷物を軽くするために軽登山靴はやめて運動靴にした。
まずは渡渉、小滝川は石の上を飛びながら渡ればいいんだけど、私の脳裏には先週末かろうじてズブ濡れを防いだいやな記憶がよみがえる。運動靴は滑りそうだし先にザックを投げてしまえ!とザックを振っているうちに、自分が振られてジャポン。膝下と肘下をつっこんでしまった。なんだよ、せっかく軽くしたのに重たくなっちゃったじゃないか!と腹が立ったがきっと黒い靴下履いてきたら縁起悪かったのだ、と思うことにする。
取り付きを探して河原を下流方向に歩き、大きなガレ場が近づいてきた所で右上する踏み跡を登ってみる。壁を見上げるが最初の左上するバンドらしきものがない。「何か違うネェ、降りてみよう」と河原まで戻ると、クイーンズウェイを登るパーティがやってきて、「すぐにARIの4人が来ますよ」と言いながら取り付きを教えてくれた。
ARIの有持さんはご自身のホームページで速いパーティなら4時間で登れると書いている。我々は8時間考えていたので、待たせては悪いと先に登ってもらう。
いよいよ登攀開始。1ピッチ目(40m、Ⅲ)は玉ちゃん。10mほど直上してバンドにのり、左上する。中間支点はブッシュ、靴の裏についた泥で滑り、グレードのわりにいやらしく感じる。
2ピッチ目 (20m、Ⅳ-)は坂本。2mほどの垂壁を登り、バンドを左上する。垂壁はガバがあり難しくはない。靴の裏についた泥もだんだん乾いてきた。
3ピッチ目 (30m、V+)は玉ちゃん。ゴジラの背を横にしたようなクラック沿いに登るが、いまひとつ体重を預けるのが恐い。上部で1、2歩トラバースして確保支点へ。
4ピッチ目 (30m、Ⅳ-)は右にトラバースして数歩下り、ランペを右上。岩が乾いているので何てことはない。
5ピッチ目 (35m、Ⅵ-)は玉ちゃん。最初の核心部であるうめぼし岩だ。まずは黒い垂壁の基部を左上するが、浮石もあるのでホールドに注意が必要。続いて、ここもゴジラの背のようなギザギザで肌色のかぶった凹角を5mほど登る。
ここを越えても安定したスタンスはなく、足場の切れた壁をフレーク手掛りに右ヘトラバースして、やっと確保支点。ここは腕力ピッチでセカンドの私もA0してしまった。うめぼし岩の由来はしょっぱい?このピッチを登っている間にARIパーティは見えなくなってしまった。
6ピッチ目(25m、V)は坂本。カンテ左から右に抜けて直上し、ハングの切れ目の下まで。
7ピッチ目(35m、Ⅳ)は玉ちゃん。頭上のハングの切れ目を越えて、草付き混じりの壁を次のハングの下まで。
8ピッチ目(35m、V)は坂本。ハングの左のクラックを登り、中央バンドのガレ場の手前の岩かげでビレイ。この辺りで残るピッチのルート取りを考えながら上部壁を見ておいた方がいい。
9ピッチ目(20m、Ⅲ)は玉ちゃん。ガレ場を横断し、上部壁の基部まで。ここは上部からの落石をモロに受けるので注意。
10ピッチ目(40m、Ⅲ)は坂本。ここからルートファイディングが難しくなる。広いランペを右上し、頭上に見えるへの宇ハングを越えたあたりで階段状の凹角を登る(終了点にはfixロープが下がっている)。頭上には鷹の巣ハングの洞穴が見えている。
11ピッチ目 (30m、Ⅳ+)は玉ちゃん。Fixロ一プに沿ってフェースを一段登り、肌色の壁を目指して左の草付混じりの壁を登ると、バンドに出る(ここはルートを探すのに2ピッチで登った)。
12ピッチ日 (20m、Ⅳ)は玉ちゃん。バンドのトラバースだが、三つ峠の亀ルートの方が恐い。
13ピッチ目(40m、Ⅵ-)は2番目の核心を坂本。スラブ左のフェースを登り、右壁に移って、あとはザイルいっぱいまで登る。途中数歩がアルパインシューズでは立ち込めなくてA0してしまったが、うめぼし岩の方が断然難しい。
しかし、ここまで登ると良い眺めだ。玉ちゃんをビレイしながら初登者のことなど考えていると、何だか感動してきた。あとは緩傾斜帯を直上するのだが、下降の時間もあるので、ブッシュ沿いにトラバースして左岩稜に移り、登攀終了とする。
ここからは先週と同じ下降点に合流すべく、そこを目指さなくてはいけないのだが、下降ポイントを探すのに30分くらいかかってしまった。
結局、下に見える目立つ立ち木の真下が大岩なので、それよりも向こう側を目指して、踏み跡らしきものを斜めに下降すると、2ピッチで下降点手前のトラバースの踏み跡に合流することができた。
ここからは先週と同じ道を下り、途中で沢の水をガブ飲みして、暗くなる前の17時30頃にテントに戻ることができた。夜間は雷と大雨で、雨は明け方まで続く。
19日(日) キャンプ場8:00 小滝9:00/15(タクシー約4000円) 糸魚川駅9:45/11:19(特急はくたか)越後湯沢駅12:35/45(上越新幹線)上野駅13:58
雨があがり、雲が切れ始めた8時頃にテン場を出発する。展望台からしばらく岩場を眺め、あとは駅までの道のりをテクテクと歩く。昨日の緊張感とは違って、のんびりした風景に気持ちも緩んでくる。
糸魚川駅では電車までかなり時間があり、午前中だというのに4合瓶を買って今回の成果を祝った。フリースピリッツのFREEは「白由で気ままな、束縛されない」、SPIRITSは「魂、気迫、アルコール」だそうだ。電車に乗ってからは速い。あっという間に松戸に帰った。
初めてのⅥ級、デシマルグレードで言えばⅥ-は5.8なのだろうが、Ⅵ-の方が全然難しいと感じた。自分自身がデシマルグレードの目安に慣れていないせいもあるかもしれないが、何か危険度が違うような気がする。だから登る前も「5.8?でもⅥ-なんだよね?でも5.8? どっちなんだろう」と頭がおかしくなっていた。しかし、左フェースルートもそうだけど、フリーで登るルートはルートファインディングが面白い。岩と対話する時間が増えると思う。玉ちゃん!来年はクイーンズウェイに行こう、5.10a。
追記
終了後のブッシュで二人とも毛虫にやられたらしく、右腕がブツブツになってしまいました。毛虫注意。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。