「秘境の山旅 ~南ア深南部を探検する~」
10/8~10 南アルプス深南部 光岳、加々森山から池口岳
メンバー:L.玉谷和博(記) 坂本多鶴 佐藤 渡辺
秘境への憧れ、原姶の森への郷愁。冒険心をくすぐる「秘境の山旅」は登山の原点かもしれません。昔、山は秘境だったはずです。ところが今や山は百名山ブームに乗って観光地となり、ガイドブック片手にリーダーのオシリにくっついてぞろぞろ歩く登山者で大渋滞。山に都会を持ち込み、不便が当たり前の山に来てまで快適さを求めてしまう。山はもうすっかり変わってしまったんでしょうか。そんな観光ツアーのような登山に飽きていたあなた、「秘境の山旅」をしてみませんか。じゃ秘境の山って何?大内尚樹は登山道がないことと、最短のアプローチをとっても1日では山頂に立てないことをその条件にしています。
今回私たちが行った南アルプス深南部というのは光岳以南の寸又川源流の山々のことで、本州では唯一「原生環境保全地域」にも指定されています。濃密な原生林と風倒木、ヤブ、縦横無尽に走るケモノ道…そんな山稜がつづき登山者を容易に寄せつけない、原始の匂いを強く残している秘境です。重いザックにあえぎ、ルートファインディングに苦労し、テント生活を続けて初めて味わえる登山の原点がここにはあります。
僕にとっての南ア深南部は10年越しの恋、想うだけで胸がドキドキしてくる。そんな憧れの山域なのです。
10/7 新宿23:50=(JR)
10/8 辰野3:39/4:57=(JR)平岡8:19/8:30=(タクシー)易老渡9:40/9:45 面平12:00/12:35 易老岳16:05/16:20 ザラナゴ16:50 (テント泊) くもり
パンパンに太ったザックが重い。ねむい頭に熊よけの風鈴がチリンチリンうるさい。易老渡からの登りは光への最短コースだけに急登が続き、けっこうきつい。途中ヒノキの巨木群が広がる幻想的な面平を通り抜け、ブナ、モミツガ、シラビソの美しい樹林の中、ときどき右手に光~加々森の稜線を見ながらの急登がつづく。やっとの思いで展望のない易老岳へ着いたが、とても予定の光小屋までは行けそうもないのでザラナゴ付近にテン張ることにする。今夜のオチャケはナベさんの差し入れロリコンラム75°と日本酒1升。あっという間にぺろりと飲むと酔いが回って、鹿の鳴き声を子守歌にしていつのまにか眠りについた。
10/9 ザラナゴ6:05 三吉平6:35 静高平7:50/8:05 光小屋8:20/8:30 光岳9:00/9:15 P2381m10:50/11:00 加々森山11:50/12:30 鹿ノ平(?) 2240m/14:05 ガレの縁/14:40 池口分岐16:05/16:40 池口岳北峰(本峰)17:00/17:10 池口岳北方2320m地点17:16(テント泊) 小雨のち晴れ
暗い樹林帯をぬけて静高平から光岳へは、ハイマツのジュータンとダケカンバが美しいまるで別天地だ。展望も素晴らしく、富士山、笊ヶ岳(!)、南ア南部、遠くには北ア、中ア、御岳山、白山…。そして南には南ア深南部の山々が黒々とつづく。加々森山‐池口岳‐鶏冠山‐中ノ尾根山‐不動岳‐丸盆岳‐黒法師岳‐大根沢山‐大無間山、小無間山 いずれも一筋縄ではいかない個性的な山ばかりだ。“深南部では時が止まっている”と誰かが言ってたけど、1/2.5万図に登山道の表記もなく、一切人工的影響を加えることを禁止したこの深い原生林には多くのシカやカモシカ、クマが棲み豊かな自然がそのまんま残っている。
光岳を越えると踏み跡は急に薄くなり、鹿のキジや足跡、熊の爪跡のマーキングやナタ目が多く深南部らしくなってきた。加々森山の明るい草原で腹ごしらえして、いよいよ核心部へ。ここから先は一転してヤブのバリエーションルートになる。下り始めるとすぐに大倒木帯が広がり、激しいヤブにつっこむ。自然のジャングルジムは稜線が広いのでルートをはずさないように赤布(白く脱色して見つけにくい)を追っていくが、踏み跡がないのでケモノ道をつなぎながら、勘をたよりにバリバリと進む。
ひどいヤブの中で何度か迷っていると、ナベさんが青い顔をして「危険だよ!!」と叫ぶ。「ガハハッ行くぜ!いてぇ!こっちだこっちだ!きゃ~!あやしいゾ!みんな、どこにいるの!あんたなんかフーン!おーい赤布あったぞ!」誰もいない静かな山がニギヤカになる。ついこないだまで「シンナンブってどんな字書くの?」なんて心細いことを言っていたユッコちゃんや多鶴ちゃんもザックを置いて偵察に走ったり木登りして地図をにらんだりしてルートを探しまわる。オヌシら、なかなかやるのぉ~。倒木帯をぬけた2240m付近(鹿ノ平?)の鞍部はかなり広いので迷いやすい。ルートは西側の濃いヤブの中にある。進むしかないと観念したナベさんものってきた。
ガレの縁を通りすぎ稜線はかなり細くなっていく。途中大きな岩があるマル危地点は、左側から岩を乗越え右側へ回りこみ巻く。そこより急登に変わるがヤブは薄くなっていき池口集落への分岐に出た。今日のサイト予定地は笹ノ平だがタイムリミットを過ぎたので鶏冠山‐中ノ尾根山は、あきらめることにした。テン場は少し登った2320m地点に決めてカラ身で池口岳を往復する。「よく歩いてきたヨ」目の前に光岩が大きな光岳と、今日歩いてきた稜線が全て見える。確かに時は止まっていた。できればこれからもずっと手つかずの自然のまま変わらないでほしいと思うのです。ところで今夜は酒がない…、鹿の鳴き声と息苦しいぐらいの野性の匂いに包まれて(クマにおびえて?)眠れない夜。
10/10 テン場6:10 ザラナギ平7:43/7:55 黒ナギ9:30/9:50 面切平/10:55 池口12:20/13:15=(タクシー)天竜温泉おきよめの湯14:05/14:45=(タクシー)平岡15:10/16:28=(JR)東京20:45 晴れ
残りのコースにいつかきっと来ることを約束して、サブルートを下りる。群落としては最南限のハイマツ(!)のコルをすぎて最後のパノラマを楽しんだあとは、転がるように駆け下りた。池口岳への最短ルートになるこの尾根ももちろん地図には道の表記がないが、百名山ブームのオカゲ(!?)かピンク色の赤布がベタうち(実は池口岳は200名山)。秘境が秘境でなくなってしまう日も近いのかもしれない。お昼すぎには池口の集落に下り、池口岳のヌシ.遠山要さんのイイ笑顔とイイ話を聞いたあと帰途についた。
-南ア深南部はよかった!そして大切な心の宝物ができた。
素敵な仲間と憧れの山。それとほんのちょっぴりのお酒があればもう最高。
帰りの電車の中、べろんべろんに酔っぱらった真っ赤な顔。顔。充実感いっぱいの笑顔
と傷だらけの腕が、この山行を語ってました。また行こうネ。
<費用>
新宿~平岡(JR) 5650円、平岡~易老渡(タクシー) 1190円÷4
池口~平岡(タクシー) 13000円÷4、平岡~東京(JR) 10820円
<特記事項>
- この山域は大井川源流部原生環境保全地域に指定されているので、入山する場合は事前に気田営林署と水窪営林署から入林許可をとること。
- 1/2.5万図と磁石、赤布、鳴りものは必携。ナタがあると便利。
- 南ア深南部については静岡やぶっこ山の会の平口善朗氏が詳しい。