厳冬期の北岳登頂.再び
1/13~15 南アルプス-池山吊尾根から北岳
メンバー:L.玉谷和博(記) 坂本多鶴 佐藤 野崎 森
早く初級の雪山から脱皮したい。もっと雪山を知りたい。もっと大きな山に行きたい。もっと難しい山に登りたい。ウサギやカモシカのように自由に雪山を歩きたい…。年末から正月にかけてそれぞれ槍ケ岳や甲斐駒・仙丈を登ったばかりで、その興奮さめやらぬまま、疲れもとれないうちに次は北岳だ。とことん山が好きな奴らなんだなアと、顔を合わすと思わずウレシクなる。北岳は去年の宿題だけど今の僕らならやれる。松戸駅でキンタ君の見送りを受けながら、そんな思いで列車に乗り込んだのです。
1/13 新宿0:02=(JR)甲府2:26(駅で仮眠)6:10=(タクシー)夜叉神の森7:10/7:45 鷲ノ住山入口9:15/9:25 野呂川発電所10:40/10:55 あるき沢橋12:05/12:20 池山御池16:50 (テント泊) 快晴
タクシーを夜叉神で降りると、まず雪の少なさに驚く。今年は10年ぶりの本格的な冬、豪雪だと聞いていたが。昨年さんざん苦労して歩いたツルツルの鷲ノ住山も、ガビガビに凍りついた長くて暗いトンネルたちもどっかへいなくなっていた。このまま何の手応えもないまま楽勝で登れちゃうんじゃないかといらぬ心配をする。ラッセルもなさそうなので、あるき沢橋で輪カンをデポして池山尾根に取りつく。
入山者数2~3パーティーか。御池まではひたすら急登。キツイのは知ってはいるけどやっぱりキツイ。水を作るための雪も無いんじゃないかとの心配もしたが、しだいに雪は深くなっていく。明日のことを考えるとどうしても城峰までは行きたいが、厳しい登りにペースはあがらない。「明日は目一杯ガンバリますから、今日は御池までで勘弁してください」と、風邪っぴきのモンペル君(森くん)が鼻汁を流しながら懇願するので、池山御池をBCにテン張ることにする。115リットルの超バカデカザックをかつぐ大きな背中がいつになく物悲しい。
16時に行動途中で天気図をとる。「明日は午後から低気圧の接近で山間部でも雨が降るなど大荒れとなるでしょう」との予報に一同ガックリ。石狩ナベをつつきながらピーク祭の前祝いか、やけ酒か。不気味なくらい暖かい夜に、ついウトウトと…。
1/14 池山御池6:06 城峰7:30 ボーコン沢の頭9:55/10:05 八本歯のコル11:30 主稜線分岐12:30 北岳12:55/13:05 八本歯のコル14:00 ボーコン沢の頭15:00/15:10 城峰16:40 池山御池17:15 (テント泊) 晴れ
今日は池山御池BCからビバーク装備で11時間をかけて北岳を往復する予定だ。行動停止を17時、撤退のタイムリミットを13時に決めて、まだ真っ暗な雪道を懐電で照らして歩きだす。アイゼンがしっかりきまって心地いい。やがてゆっくりと夜が明けて暗い樹林の中に山は静かに彩づき始める。この時間の山の美しさといったらもう…。樹林帯を抜けるとボーコン沢の頭も近い。農鳥-間ノ岳-甲斐駒-八ツ-鳳凰-奥秩父-富士-笊ケ岳の双耳峰も見える。一息にボーコン沢の頭に出ると、強い風とともに圧倒的な迫力で現れたのは北岳バットレスだ。それにしても軽装なのにペースが遅い。タイムリミットが気になる。いつのまにかパーティーが20mほど離れていたが、後ろにはSLもいるし八本歯のコルまではヤバイ所もないので、見える範囲で引っ張るつもりで行く。
「天候の悪化が早い。このペースだとピークはもう無理だよ」と、そんな声があがる。おいおいどうしちまったんだ。天気も予報外に悪くないし、まだまにあう。絶対に行ける、大丈夫。しかしこれが不満となって、お酒も飲んでないのに多鶴ちゃんが爆発!パーティーが分裂寸前になってしまった。絶対にピークに登りたい/とりあえず行ける所までいきたい/もう無理、ヤバイから早く帰ろう。みんなの気持ちが分れて行動がちぐはぐになっていく。八本歯手前で一本。頭を冷やしてもう一度北岳と向かう。フィックスザイルが残置された痩せた岩稜を慎重に通過すれば、北岳はもう目の前だ。
「行けるかな、行きたいね」風邪っ娘のユッコちゃんも頑張る。みるみる広がるガスと時間に追われるように登る、登る。12時55分。ギリギリでピークに立つ。一面のガス。やったぜ、厳冬の北岳ピークだぜ。時折はるか下に僕らが歩いてきた池山吊尾根が見え隠れする。僕らの肩の上にはいつでも小さい親方(山中さん)がいてくれるのです。黒戸尾根の時も槍の時も。
「ピークは踏まなきゃダメだ。どんな理由をつけても失敗だ/いつものようにやればいいんだよ、落ちついて/玉ちゃん多鶴ちゃん達なら行けるよ。大丈夫だよ」と。そうだ、何も知らずに冬山がただ怖かった去年とはまるで違う。この山行の目的は怖がって仲良く撤退することではない。力を精一杯出して全員で北岳に登頂することにあったんだ。
帰りも長いので早々に頂上をあとにする。しだいに風も止み、晴れ間が見えだす。頂上を踏んだ達成感と、あとは下るだけの安心感から展望を楽しみつつ、ワイワイと池山御池のおうちへと急いだ。今夜は夕カジ君(野崎さん)自慢の海鮮シャブで登頂祝いだ。
1/15 池山御池7:15 トラバース分岐7:50/7:55 あるき沢橋9:15/9:35 野呂川発電所10:15 奈良田第三発電所13:05/13:15 奈良田の里13:50/16:20=(タクシー)17:30/17:32甲府19:00/19:42=(JR)新宿21:10 くもり
あんなにキツかった道をあっという間に駆け降りる。野呂川発電所からは「もう鷲ノ住山は登りたくない」との声が多いので奈良田まで林道を辿ることにする。途中ガチンガチンに凍ったトンネルをいくつもくぐりながら、延々約18㎞。気合が抜けちまってるのでもうヘロヘロ。最後は温泉「奈良田の里」のお湯とお酒で、山行を締めくくった。
ピークを踏んで目的は達成した。けどどこか後味の悪い気まずい山行になってしまった。この山行ではメンバーシップの難しさを考えさせられ、さらに僕らの弱点が一気に噴き出してしまった。ベテランリーダーなしで力が同等のメンバー。個性か、わがままか。思いやりと我慢と。リーダーとは?サブリーとは?またメンバーとは何をすべきか?リーダーシップの重要。ミーティング不足。まだまだパーティーとしての力の無さを痛感した。もっと話し合いが必要だし、冬山やザイルを組む危険な山行では、表面的でテキトーなつきあいじゃすまされないと思うのです。本当の仲間にならなければ。そしてそんな仲間と充実感があって、いつもドキドキするような山行がしていたいのです。
<費用>
松戸~甲府(JR) 2470円、甲府~夜叉神の森(タクシー) 9000円÷5
奈良田~身延(タクシー) 14990円÷5、身延~松戸(JR) 3440円、他 食費
<注意>
・芦安~夜叉神の森の間にゲート有り。車の通行を確認のこと。
・トンネル内は真っ暗で凍っているので、迷わず懐電とアイゼンをつける。
・八本歯のコル通過には一応、ザイル技術をマスターしておくこと。ハーネス。ザイルは20mで可。