八ヶ岳西壁で冬期クライミング①
1/25~26八ヶ岳.赤岳西壁主稜敗退記
メンバー;L.玉谷和博(記)、SL.坂本多鶴、中野勉、久保
重荷を背負い、なだれに怯えながら、胸までのラッセルにゼーゼーヒーヒー。冷たくて暗い岩場で、ふるえながらアイゼンをカリカリと刻む…。
いよいよ冬壁に挑戦です。岩と雪の憧れのアルパインクライミングなのです。
去年の3月、僕らは初めての冬期登攀として阿弥陀岳北稜と南稜に行きました。先輩クライマーも経験者もいない、僕らだけで行ったアルパイン。あの怖さと面白さにシビレちまってからというもの、雪が待ち遠しくて「今年の冬は毎週のように八ヶ岳の冬壁に入ろうぜ」と、またいつものように“天狗”で盛り上がってしまったのです。今回はまず手始めとして、2日間で赤岳主稜と石尊稜を登ってしまおう という欲張った計画を立てました。
1/24(金) 松戸21:10=(車)
1/25(土) 美濃戸2:30/8:00行者小屋11:10/11:40 2550m地点12:20(撤退)行者小屋12:40/13:10赤岳鉱泉13:45 [くもり]
空はどんよりと重く雪雲がおおって、時おり小雪が舞っている。中野さん運転の車で夜遅く入山した僕らは、睡眠不足で足どりも重い。行者小屋へ向かうこの南沢コースは、赤岳鉱泉へと向かう北沢コースよりもかなりキツく感じるのは気のせいだろうか。
無人の行者小屋へ着いたのが11時すぎ。かなり時間をオーバーしてしまったので、予定を変更して、とりあえず今日は赤岳主稜の取り付きまで下見に行くことにする。雪が舞う中アイゼンをつけて文三郎道を登っていく。
それにしても八ヶ岳はとにかく寒~いのだ。特に足の指先がカチカチに凍っちまうたように痛い。とくにこの時期、1月末から2月頃にかけての八ヶ岳は、正月の八ヶ岳や槍、穂高岳などとくらべても、格段の違いで寒い。だいいち僕がこの“たかはし”の革靴で、寒い(というよりも痛い)と感じたのは初めてだ。やはり保温の面では、プラブーツにはかなわないと思う。
相変わらずペースはあがらず、たいして登っていないのに疲ればかりが増してくる。とりわけ中野さんの様子がおかしい。カラキジも出ないところをみると、よっぽど体調が悪いようだ。ネパールで変な病気でももらってきたのかな? 2550m付近まで登ったけど、明日のこともあるので行動を中止して、本日の宿の赤岳鉱泉へ下りる。
小屋では明日の準備・ギアの整理とコースのチェックを入念に済ませれば、そのあとはやっぱり酒だよね。飲むほどに酔うほどに話がはずむ。山行部の話(歴代山行部長が三人も揃ったので!)、ザイルの仲間の話、松戸山の会への思い、山への夢、今年の抱負、…。みんな若い!熱い!! でも数時間後、夜もふける頃にはキジ坊はロレツが回らなくなり、久保ピーは訳がわからず。僕は大声でわめき、酒本多鶴ちゃんは暴れまわり、蹴りまで入る。いつものようにまったくどうしようもないただの酔っぱらい連中になりさがっていったのです。…zz
1/26(日) 赤岳鉱泉5:35 行者小屋6:15/6:30 主稜取り付きのトラバース分岐7:30/8:00(撤退)行者小屋8:40 美濃戸9:50/11:40=(車)樅の湯11:55/13:30=(車)松戸17:40 [吹雪]
翌朝、まだ体調が悪い中野さんを赤岳鉱泉に残して、3人で暗いうちに出発する。行者小屋に着く頃には夜も明けてくるが、今日も天気は悪そうだ。一気に文三郎尾根を登り森林限界を過ぎると、小雪まじりの風がゴーゴーと吹き出してきた。道が大きく右に曲がるあたり、鎖場の鉄杭に赤テープを発見。すぐそこにあるはずの下部岩壁はガスで見えないけれども、ここが赤岳主稜の取り付き点に間達いないと確信する。
「さあ行くか!」ハーネスをつけてヘルメットをかぶる。ところが手が、かじかんで思うように動いてくれないのだ。「ハーネスの折り返しがきかない。フードが凍ってかぶれない」と、あせる久保さん。強い風がみるみる体温を奪っていくように、もう全身まるごと凍ってしまいそうに寒い。
その時、多鶴ちゃんのヘルメットが滑落。あっと言う間に谷底に見えなくなってしまった。こんな時は逃げるが勝ちだ。天候が悪いのはもちろんのこと、集中力に欠け、余裕がなくなっているので“危険”と判断。下山することにする。登れないのは悔しいけれども、これも経験だ。こんな日もあるよ、また来ればいい。とうとう一度もその姿を見ることができなかった赤岳主稜をあとに、とっとと帰った。もう一度計画を練り直して、また出直します。
<注意>
- 八ヶ岳は想像以上に寒い。冬の登攀ではビレイ中、じっとしている時間が長いので防寒対策はしっかりと。特に足の指先の保温は完璧にしたい。
- ハーネスは、安定した場所(出発前や小屋前など)で装着すること。
- この時期、行者小屋には宿泊できない。
- 赤岳主稜へのアプローチは二通りある。ひとつは今回僕らが目指したもので、文三郎道が右に大きく曲がるあたりから赤岳沢の右ルンゼをトラバースして、残置シュリンゲが数本ある下部岩壁の側壁に取りつくもの。もうひとつはその50mほど下、文三郎道から右ルンゼを越えて、左ルンゼ側に回りこんで尾根にとりつくものだ。
前者の方が一般的。