北アルプス奥穂高岳・涸沢岳西尾根
山行日:1996年12月29日(土)~1997年1月1日(水) 前夜発3泊4日
参加者:L坂本多鶴(記)、玉谷和博、野崎
28日 上野駅21:55(急行加賀)富山駅5:48
29日 富山駅6:05(富山本線)猪谷駅6:57/7:01(神岡鉄道)奥穂高温泉口7:33(タクシー約10000円)新穂高温泉8:15/9:10 穂高平山荘10:25/11:55 白出小屋13:05
急行能登の指定席がとれなかったので、加賀で出発する。富山駅に着くと、いつもは開いている売店が閉まっている。我々は朝飯を持っていない。玉ちゃんと私は改札口を飛び出し、近くのコンビニまでダッシュして弁当3個を仕入れてきた。ハァハァいいながら戻ってくると、売店は開いていた。起き抜けの激しい運動から今回の山行は始まってしまった。
1年ぶりで久しぶりの新穂高温泉は昨年よりも雪が少ないが、登山者は多い。皆どこを目指すのだろうか。我々が今回目指すのは、2年前に途中までしか行けなかった奥穂高岳である。この奥穂に最も早く登れるのが涸沢岳西尾根からのルートなのです。
第1日目の行程は夜行の疲れもあるので、ほとんど平坦な道を歩いて白出沢出合までとする。整地してテントを張る。水作りが終わると宴会の開始。暗くなって早々に睡魔一族が襲ってきたので、おとなしく眠る。
30日 白出小屋7:25 2400m付近11:25/55 蒲田富士プラトー15:25
昨日も穏やかな天気だったが、今日もいい天気。ストックとゴミをデポ(置いていく)して出発する。いよいよ今日は登り。白出沢を渡って登山道をまわりこみながらしばらく行くと、西尾根にとりつく場所に赤布がついている。
入りこむと、先に入ったパーティによってトレース(踏み跡)がついている。ルートファインディングとラッセル(ルート判断と雪掻き歩き)がないので楽なのだが、急登なのだ。つかめるものはなんでもつかんで登るが、ワラはない。荷物もデカイので、木の枝にひっかからないように注意する。
目指す2400m付近は、このルートの幕営ポイントのひとつで、7張りほどテントが張れます。この少し先が森林限界になるので、ほとんどのパーティは稜線で吹かれることを避けて、この場所にテントを設営するのです。我々もここに設営する予定だったのだが、トレースのおかげで早い時間についたため、蒲田富士の先まで登ることにした。風が穏かだという情報を得ていたからだ。
アイゼンをつけて出発。2600mで尾根から稜線に飛び出す。素晴らしい眺めだ。蒲田富士の本当に急登を登り、痩せ尾根を通過すると、テントが2張り。我々もこの場所にテントを張る。北側は雪庇だが、南側は50cmも掘らないうちに地面が出てくる。テントの南側にブロックをつくって完了。
予定では、この日は2400mまで登り、翌日に穂高岳山荘まで登るはずだったのだが、2750mまで登ることができたのと、トレースによって行程時間が思ったほどかからないことから、翌日はこの地点から奥穂高岳をピストン(往復)することにした。
31日 プラトー7:20 涸沢岳8:40 穂高岳山荘8:50/9:05 奥穂高岳10:05/10:15 穂高岳山荘11:45/12:05プラトー13:15/14:00 2400m付近14:45
朝いち、トイレに行くとゲロゲロ。ガマ蛙か!!と思ったら雷鳥であった。暗闇で聴くと、思いのほか不気味な声だ。昨日より雲が下界付近にでているが、今日もいい天気だ。必要装備をザックにつめて、ハーネス(クライミング用のベルト)とアイゼンをつけて出発する。風はないとの情報は得ているが、念のためにテントをつぶしていく。
まずはF沢のコル(鞍部)へ下降する。ここから涸沢岳までが核心部なのだが、朝いちということもあり、急ではあるが思ったよりも歩きやすい。ほとんどのパーティが岩稜上でなく、その南側のルンゼ(急な岩溝)の雪の上を登っていた。
岩稜線上が平坦になるとこら辺りから稜線に出る。涸沢岳からは下降して、穂高岳山荘の立つ白出乗越へ。冬期小屋以外は屋根まで埋まっていた。
先行パーティ6人がハシゴを登ったころに奥穂高山頂に向けて出発する。ハシゴを登って、そのままトレース沿い登ろうとしたが、雪が悪くてピッケルやアイゼンがきかなくなってきたので下を向くと、夏道沿いにトレースがついている。玉ちゃんとタカジ君に下のルートに行くから、降りてくれ~と頼む。この数mの下りは非常に緊張した。全体的に飛騨側の斜面は雪がサラサラで雪同志が密着していないので、いやらしい。下りはザイルを出そうと思った。
奥穂高岳の手前の急登を越えて山頂に到着する。非常に穏かだ。青空の中に無数の山達。穏かでも人間にとっては寒い。記念写真を撮って下る。すぐに急な下り。雪の壁側に向いて一歩一歩を確かめながら慎重に下る。次の急斜ではザイルを出す。ハシゴの場所まで約20mずつで2ピッチ。確保支点はほとんどの場所で岩が使えます。
山荘まで戻って日向で身体を暖めると、よっぽど寒かったんでしょう、足先がジンジンチクチクしてきてイタタッ。足先まで暖まってから、テントまで戻る。F沢のコルまでの下降は、朝よりは雪がサラサラになっていやらしかった。
到着すると、玉ちゃんが樹林帯まで下降しよう、と言う。私は疲れたのでイヤだなぁと言ったが、野崎タカジ君も降りることに賛成したので、テントを撒収する。ハーネスもはずしてザイルだけ出せるようにしておく。
痩せ尾根を通過して蒲田富士の下り。登る時に一箇所いやな場所があったのだが下る時はそうでもなかった。荷物をひっかけないように注意しながら下る。やがて、急な斜面が出てきたので、雪面に出ているフィックスロープを使いながら降りていくと、ロープが雪の中にもぐったところでイヤな感じになってきた。次の足場まで離れていて、雪がまたサラサラなのだ。この繰り返しで緊張の連続。終わった時にはほっとして、ここでもザイルを出すべきだったんだな、と思った。登りでは感じなかったのに。
ここからまた少し下ると2600m地点。ここで稜線から右手の尾根に入る。間違えてそのまま稜線を下ってしまわないようにしの竹が何本かたっている。2400m地点まではまだまだ急斜がつづく。やっと着いた時には汗だくだくでヘロヘロで、ビールが飲みたいよ~と叫んだ。でも、テント内で飲んだココアが美味しかった~。玉ちゃんとタカジ君はさらにチュウチュウしようよ、と言って、チュウブ式蜂蜜を吸っていた。怪しい奴等だ。
1日 2400m付近7:35 白出小屋9:05/9:15 穂高平山荘9:50/10:30 新穂高温泉11:15/12:25(タクシー約17000円)猪谷駅13:30(富山本線)富山駅
※来年からは安房トンネルが通れるため、松本からも入山できるそうです。
元旦の朝。今日もお天気です。今日も急斜を下ります。下ったら山行は終わりです。昨日の下りで太股がパンパンだがバンバン下り(と書いておこう)、白出小屋でデポを拾って、穂高平山荘でビールとおでんをガツガツ食らって、新穂高温泉で身体をガシガシ洗って、富山の飲み屋で飲んで食べてお金を払って、そしてそして、松戸に帰った。
今回まずかったのは、往路と復路が同じなのに蒲田富士の下りでザイルを出す判断が事前にできなかったこと。より練習が必要だと感じだのはアイゼンワークで、いかなる雪質(岩とのミックスも含めて)にももっと対処できなくてはならない。工夫が必要なのは、バイル(短いピッケル)やデッドマン(雪上で確保する道具)の装着場所で、腰につけていたが非常に邪魔なのだ。食糧も軽量化を図るために乾燥物にしたが、このメンバーだとあまり食べないので、タ食は半分位余ってしまった。ガスは雪から5リットルの水を作るのと夕食と朝食をつくるのに2個使わなかったし、予備日の分も2個ずつもっていたが、予備日は1個でよかったようだ。あと、ライターは100円ライターが一番。液体ガスのは胸ポケットに入れても凍ってダメであった。
行動全体としては、トレースがついていたので半分から3分の2の体力で登れたと思う(予定よりも1日早く下山できたんですから)。天気が穏やかだったために稜線で吹かれることもなく(と言うことはバランスを崩されることなく歩ける)、進むべき方向を見失う心配もなく(と言うことは足元により神経を集中できる)、非常に恵まれていた(恵まれすぎているのだ)。今回の山行で楽観的にならないように、今まで以上に頭と身体を使って慎重に確実に前進しなくてはならない。
最後に、山の会らんたんに所属している気象大学校の村松教授に週間天気予報を出していただいて非常に参考になった。
<共同装備>
テント(2~3人用、内張付)1張り、竹ペグ8本、スコップ2本、銀マット2枚、コッヘル1セット、コンロ2台、ボンベ(冬期用)14個、ロウソク12本、ブス板2枚、ビニール袋(大)1枚、水切り袋適宜、トイレットペーパー2個、朝刊2部、たわし1個、テルモス(大)1個、ラジオ1台、天気図用紙適宜、無線機1台、使い捨てカメラ1台、ザイル(φ8mm×20m)2本、ポリタン(5リットル)1個、医薬品1式、しの竹と赤布3本、予備電池(ラジオと無線機用)10本、デッドマン2個、スノーバー2本、バイル2本、ツェルト1張、タ食4食+予備2食、朝食4食+予備2食、お茶類(緑茶、紅茶、ココア)、砂糖と蜂蜜、カップスープ、お酒(日本酒2リットル+バーボン1リットル)
※ ビニール袋に雪を集めておいて鍋で溶かし水切り袋でこして水を作り、ポリタンに溜めます。
※ テント内を濡らさないよう、新聞紙をひいてブス板の上にコンロを載せます。
※ たわしは、テントに入る前にザックや靴についた雪をとるために使います。
※ デッドマン、スノーバー、バイルは雪上で確保するために使います。
<個人装備>
ザック、登山靴、ピッケル、アイゼン、ストック、オーバーヤッケ・オーバーズボン、手袋・替え手袋、オーバー手袋、ロングスパッツ、帽子、目出帽、サングラス、長袖シャツ、長ズボン、アンダーウェア上下、セーター、靴下・替え靴下、シュラフ、シュラフカバー、エアマット、食器、ナイフ、ライター、手拭い、ヘッドランプ・予備電池・予備電球、予備靴紐、筆記用具、地図、磁石、計画書、保険証、持病薬、ハーネス、カラビナ(安全環付き1枚、普通2枚)、シュリンゲ3本(長・ロープを含む)、エイト環、朝食1食、昼食7食、行動食
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