谷川岳一の倉沢一の沢二の沢中間リッジ(冬期クライミンググレード2級)
山行日:1998年3月21日(土)~22日(日) 前夜発1泊2日
メンツ:L坂本多鶴(記)、玉谷和博
20日 上野駅20:27(高崎線快速)高崎駅22:02/08(上越線)水上駅23:09/15(タクシー約4000円)登山指導センター23:45(幕営)
21日 指導センター5:10 一の倉沢出合6:20/50 中間リッジ取付7:30 雪原10:30 プラトー16:30(幕営)
22日 プラトー6:30 東尾根8:30 オキの耳10:30/50 天神平12:00
昨年今年と、ほぼ毎週のように八ヶ岳で冬期クライミングを続けてきた私たち。そして今夜、谷川岳に向かっている。登山指導センターの壁際にテントを張って、0時30分頃に眠りにつく。
3時30分に起床。カップラーメンを食べて5時過ぎに出発。一の倉沢に向かうまでに明るくなってくる。出合では2パーティが準備をしている。本谷を見上げると大きなデブリの跡、さらに上には別パーティが見える。私たちも準備する。
今から一の倉沢の一の沢と二の沢の中間リッジを登るのです。一の沢を左側に見送り、ゴロゴロとした岩のようなデブリの上を歩きながら二の沢をまわりこむ。氷瀑の手前から垂壁に取り付くと、登るうちに傾斜が80度近くになってきた。ふと足元を見ると…、ひえ~、高いよ~、恐いよ~、とビビリが入る。少レパラパラとしてきたので、相棒に降ってきたよ~っと伝えると、すぐに良くなるよ、で終わってしまった。
我々の背後では新雪雪崩が音もなく雪煙をあげている。あまりにも急なので、ザイルを1本出してつるべで登ることにする。なかなか傾斜は緩くならない。傾斜が急なのでふくらはぎはだんだんと痛くなるし、雪がザラメ状なので足もとが不安でブッシュをつかむ腕には力が入り、その腕も疲れてくる。こんなグサグサな雪で上部はいったいどうなっているんだ、と不安な気持ちになってくる。それでも少しずつ動けば稜線に近づいていくんだ、と思いながら登っていると、やっとなだらかになり雪原に到着する。
ここからが中間リッジの始まりという場所だ(まだ、こんな所なのか・・・)。ベルクシュルンドが口を開けている時もあるそうだが、今回はない。この雪原を左から取付き、上部を右斜めに登っていく。ここからまた急斜だ。私たちの前には2パーティが登っていく。私たちもコンティニアスで登る。グサ雪とブッシュとの戦いに泣きが入ってきそうだ。足があげられないときには、先に登っている玉ちゃんにビレイしてもらい、力のなくなってきた腕でくそ~ぉ!!と身体をもちあげる。ブッシュがザックやバイルにひっかかってイライラする。とは言っても彼らはいつもと同じ場所にいるのだし、踏み込んでいる自分が悪いのだ。こんなことを繰り返しているうちに立木のある小ピークに出る(まだまだ、先は長い・・・)。目前にはまたまた急な斜面が待っている。
泣きの入っている私はここで気持ちを切り変えなくてはイカンっと思い、自分から先に急斜を登りはじめることにする。小ピークからコルに5mほど下り、さらに5mほどやせ尾根を進んだブッシュで玉ちゃんがビレイ。気合を入れて登り始めると、腕のだるさも気にならなくなってきた。急に見えてた斜面も今まで登ってきたのと変わりないじゃないか。でも、中間支点をとったり、玉ちゃんが下でビレイしてくれているから、安心してどんどん登れるのだ。ブッシュや岩を確保支点にしながら、つるべで登っていく。休憩しないからザックを背負ったままの肩は痛いし、湿ったザイルを引き上げるので腕や腰も痛い。それでも、登りつづけるうちに岩峰群をもつ支稜線が近づいてきた(やっとここまできた・・・)。玉ちゃんはなぜか歌いながらリードしていった。山の歌って辛いときや苦しいときに勇気を与えてくれるんだなぁって嬉しかった。小ピークでビレイしている玉ちゃんに近づいてその先を覗き込むと、痩せた岩稜が私を待っている(やっと岩稜にきたけど、ひえ~、こんな所行けんのか、でも行くしかない…)。取付くと、足元は安定しているし岩もガバであった。途中石碑のような岩があり、本当に石碑だったらどうしよう、と思いながら中間支点をとり、ちょっとした窪地でビレイする。その先は痩せた雪稜である。玉ちゃんが馬のり状態で2mほど進み、雪稜の向こうに消えて行く。この先のビレイ点はプラトーだとガイドに書いてあったので、きっとテントが張れるはずだ、と思いながら進む。顔が見えてくると、ここにテントを張ろうよって言うので、ああ、やっぱり張れるんだって、ウンッ!!と答える。
一の沢側に小さな支稜線が出ていて、そこが6畳位の素敵なテントサイトを提供してくれているのだ。ビレイしてもらったまま、一応大丈夫かどうか歩き回ってみる。5時過ぎから行動して、16時30分で行動終了。明日向かう東尾根までの景色を眺めておく。整地して、バイルでテントを固定して中に入る。お互いに途中からビバーク地点をどうしようって考えていたみたいだ。確かに2人位が座れるビバークポイントはたくさんあったけど、ここは本当に静かでいい場所だ。紅茶を飲んで、チーズとマグヌードルの夕食をとる。明日の天気予報は曇り、午後から山間部は時々雪。午前中の間に抜けたいね、と話す。明日も3時30分に起きよう、と19:30頃に眠る。
3時30分。あと30分眠ることにする。紅茶とマグヌードルの朝食。外を見るとガスってる。滑り落ちないようにキジを済ませて、今日も慎重に登るぞぉ、と気合を入れる。今日もブッシュがビレイ点になってくれるが、上部に行くに従って少なくなってきたので、デッドマンやアックスをビレイ支点にする。2時間ほど登って稜線にぶつかった。東尾根なのだが、想像していたのと全く違う。ガイドには平坦地とあったが、斜面だ。視界は悪く、空と稜線の境がわかりにくい。雪庇に近づかないようにしたいのだが、その1m位下で辛うじて先端部が見えるくらいなので、それより離れると稜線を見失いそうだ。
前日のパーティが残したトレースらしきものを追いつつ、雪庇との距離を気にしつつ、つるべで進むも1ピッチ進んだところで、6人のパーティが私たちを抜かしていった。あっ、人だ。人を見ただけで、何て心強いのだろう。彼らのトレースがバケツ状についたので、コンテに切り替えてすすむ。じきに第一岩峰が見えてきた。直上ルートと右手から雪壁を登るトラバースルートがあるが、先行パーティが右手から回り込んだので、我々もそれに従うことにする。ここで、さらに4人のパーティがやってきた。先輩と一緒に行動している若者たちは楽しそうだ。でも、先輩と一緒に行動していない自分は、ルートは間違ってないかとか、足元は大丈夫かとか、ビレイ支点は大丈夫か、とか色々なことが気持ちを支配していて、楽しいという気持ちが入り込む隙間がない。先輩がいないだけでこんなにも精神的に大きく違うんだなぁ、と思いながら彼らを見た。
回り込んだ雪壁はザイルほぼいっぱい。我々だけだったら岩を直上した方が安全だったね、と話した。ここからさらに雪稜を進むと目前に黒い岩がでてきた。この岩をまくように慎重に左にトラバースして急な雪壁を直上する。きっと、もうすぐ稜線だと思うと涙が出そうになったが、気をぬくなっ、とダブルアックスで一歩一歩登る。やっと稜線に出た。すぐに玉ちゃんも登ってきた。ここが終了点のオキの耳。がっちり握手すると我慢してた涙が出てきた。でも、降りるまでは安心できない。視界は10mもないのだ。地図と磁石を出してトマの耳の方向を確認する。先行パーティのトレースもわかりにくいが、暫く進むと見覚えのある岩に出た。稜線からはずれないように注意しながら歩く。緩い登りが始まり時間的にもそろそろかな、と左を見ると人影が見えた。トマの耳についたよ~っ、ピークまで登る。ガスの中を他にも人が登ってくる。
やっと安心できる場所について、ホッとする。肩の小屋から先はしの竹がずっと打ってあった。降りれば降りるほど視界がひらけてくる。人が登ってくる。暑くなってくる。あんなに真っ白な世界にいたのがウソのようだ。たった2日間なのに1週間くらいいたような気持ちがする。でも、今回は今までの中で一番精神的につらかったし、弱音をはきそうになる自分に自分で気合を入れての繰り返し。冬山って強い精神力が必要なんだなって思った。体力は当然必要だけど、もっと必要なもの。私たちのパーティはベテランがいないので、お互いを補いあったりはしても、頼りあってはいけないのである。だから、より強い精神力が必要になる。やっと冬山の世界に入ってきたんだろうか、という気がした時に嬉しさがわいてきた。
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