北穂高岳 滝谷ドーム中央稜(Ⅲ級、V、190m)
山行日:1997年7月19日(土)~21日(月) 前夜発2泊3日
メンツ:L坂本(記)、玉谷
18日 新宿駅21:00(特急あずさ)松本駅(仮眠)
19日 松本駅4:30(タクシー15000円)上高地6:00/30 横尾8:10 涸沢12:15/40 北穂高小屋17:00(1泊2食8200円)
今年は剱、穂高、谷川の3大岩場を目指すことにした。しかし、春になってから私といえば、三つ峠での岩トレ1回と幕岩のフリークライミング2回。ゲレンデで攀じ登ったりする練習も大切だけど、総合的なものを身につけるためには、もっと本チャンで登らなくてはならないのだ。
という訳で、今年初の岩は北穂高岳の滝谷。穂高エリアには他にも屏風岩、前穂東壁などの岩場があるが、滝谷は北穂と涸沢の稜線の飛騨側にあり、ドーム中央稜は岩も堅く明るい雰囲気の快適なルートです、といかにも登れそうに書いてある。さて、その結果は…。
1日目は北穂高小屋まで登ることにした。約1500mの高低差の行程にいこうっていうワケだ。涸沢手前の雪渓で船橋の本田さんに会う。横尾をベースにして屏風岩に登るそうなのだが、他のメンバーが今日入山してくるため、生ビールを飲みに来たそうだ。やっぱり船橋には変な人が多い。我々は生ビールを我慢して残りの行程に挑む。こんな炎天下に急登を登るなんてバカです。年配のご夫婦は「私達はナメクジ戦法で登ります」と言った。「あっナメクジさんだぁ」「追いついたぞぉ」って何度も会話をかわす私たち。「ナメクジより遅い私達って何ですぅ?!」「う~ん、ダンゴムシ」だって。わ~い。
タ方の5時に小屋につく。日が長く天気が安定していたので、たくさん歩けたけどダンゴムシとっても疲れた。ビールを飲みつつ、翌日登る順番をジャンケンする。
20日 北穂高小屋6:30 稜線からの下降点7:00 ドーム取付7:45/8:00 終了点14:00 北穂高小屋15:00
2日目。めちゃめちゃ良い天気だ。天気が良いと不安な気持ちが少し和らぐ。ところが、北穂の北峰直下の雪渓でいきなりビビル。登山道を南峰の先まで歩いて、大きな岩の上で装備を整える。鎖場を通過した後の×印(登山道じゃないよの目印)が下降点だ。踏み跡を拾いながら下る。
お互いに信用しあっていないようで、そっちじゃないよ、とか言いながらも迷うことなく懸垂下降点に到着する。ここから25mいっぱい下降し、取付点へ伸びる踏み跡をたどる。先に1パーティがいて、「北西カンテですか」と聞かれた。玉ちゃんは「ドーム中央稜、間違いないですよ」と経験者のように答える。ここでクライミングシューズに履き替える。
いよいよクライミング開始。まずは玉ちゃんがリード。さっきとは別人のように「俺達初心者ですから遅いですよ」と腰が低いけど、声がでかくて「俺達初心者ですから遅いです」、とコダマが返ってくる。うわぁ。1ピッチ目はチムニー40m・IV級。上部のチョックストーンを越えるとビレイ点だが、その直下が難しく、少しかぶった感じになる。セカンドの私はとうとう中間支点ひとつを回収できなかった。くそっ。さらに手足がかじかんで痛いので靴をぬいで足の指をもむ。
次の2ピッチ目はリッジからスラブ40m・V級を坂本リード。前半は何てことなく、スラブも支点がたくさんあるが、最上部はフレンズをセットしてから、腕力で登った。ここのテラスは広いが、ハーケンはないので岩でビレイ。太陽の光があたたかい。
続く3ピッチ目は40m・I級のリッジを玉ちゃんリード。ここも広いテラス。
4ピッチ目は凹角からチムニー35m・IV級で坂本リード。チムニーはザックが入らないので、右のクラックから回り込んでチムニーの上部に出る。ここは狭いテラス。2mほどの垂壁でザイルも流れにくいのでピッチをきる。玉ちゃんが垂壁のリングボルト1ヶをフルに使い、その先のビレイ点まで。
いよいよ最後のピッチ。私が4ピッチ目をきらなければ玉リードなのだが、きったために順番が自分になってしまった。一生のお願いだから登ってくれぇと頼んだのに全面的にことわられて、渋々登る。5ピッチ目は凹角からハング35m・V級、凹角からクラック沿いはIV級。登り始めると、玉ちゃんは急に生き生きとして「写真とるから下見て~」と叫んでいる。思いきり無視して登りに専念する。ハング直下はハーケンがぐらついていたので、少し降りてクラック沿いに登ると、すぐ終了点。ドーム中央稜で最後の「ビレイ解除!!」。玉ちゃんが登ってくる。結果はやったぜ。
ドームに向かって歩くと、その北側に登山道が見えてきた。登攀スタイルを写真にとってもらうため、ギアをつけたまま歩く。すれ違う人がどこに登ったんですか、と聞いてくれる。これって玉谷くんが非常に喜ぶパターンなんだよなぁ。小屋についてビールで乾杯し、ワインで祝杯をあげる。今宵はドイツ人と同部屋。
21日 北穂高小屋6:30 涸沢8:40 上高地14:00/15:00(タクシー)松本駅17:00/18:49(特急あずさ)新宿駅
翌朝。今日も天気。玉ちゃんは朝からハイで、ドイツ青年に「I like German potato!!」
うけたものだからスペシャルハイになってしまった。とにかく今回はそれだけハイになっても構わないぜって感じの素敵なクライミング日和の楽しいクライミングであった。なぜって、今までやっていることを少しずつながらものにしている、という手応えがあったから。取付きまでのルートファインディングから始まって、装備の使い方、ルートの選び方、支点の取り方、登り方などなど。でも、もっとスピーディに登れるようにならないとね。
岩とは関係ないけど、小屋で自分の子供よりも若いバイトの子を怒っている入や、他の人と自分の待遇が達うってぶつぶつ言う人がいた。この時期って急に登山客が増えて彼らもまだまだ慣れていないんだから、割り切ってあげないと。ああいう了見の狭いわがままな人間は山にいってはいけません。登山口に「わがままな人間おことわり」と立て札をたてましょう。あと、北穂の直下の雪渓で滑落事故があってヘリで運ばれたんですけれど、下りはとくに気をつけましょうね。最終的に信用できるのは自分の技術プラス装備。