正月のプレ山行
12/12~13(1泊2日) 冬の上州武尊山リターンマッチ
メンバー:L.玉谷和博(記) SL.坂本多鶴
「今年の年末年始は北鎌に行こうぜ!」「おう、私も思ってたのよ」北岳、甲斐駒、槍穂、八ツ…と目ぼしい冬山の一般ルートなら登ってしまったし、もっと手応えが欲しい。「今回からは、正月もバリエーションだ。アルパインだ!キタカマだ!」5月の連休にアプローチの天上沢で溺死寸前状態だったこともすっかり忘れたのか?もうこれだ。で、その為のプレ山行として、こちらも一度敗退している上州武尊山を選んだ。装備のチェックとボッカトレ、そして頭と体を冬山モードに切り替えることが目的なのです。
12/12(土) 松戸駅5:30=(JR)上野駅6:15=(JR)高崎駅7:00/7:03=(JR)水上駅8:11/8:13 (タクシー)上ノ原山ノ家8:50/9:00 尾根上14:00 手小屋沢避難小屋付近15:00(テント泊) [小雪のち快晴]
12/13(日) 手小屋沢避難小屋付近8:00 武尊山(沖武尊)11:30/11:50 中ノ岳12:50 武尊避難小屋13:50 武尊牧場19:00/19:10=(タクシー)上毛高原駅20:30/21:01=(JR)上野駅22:06=(JR)松戸駅22:35 [快晴]
「冬の上州武尊はなかなかなのです」
水上に着くと駅前は真っ白だった。「町なかは今日の朝、初めて積もったんですよ。上州武尊の雪(の量)はハンパじゃないからねぇ」タクシーの運転手にそう言われて、前回(今年1月)は深いラッセルに苦しんだことを思い出していた。そうあの時は、今は無きCCC=千葉クライマーズ倶楽部の結成式だったんだ。船橋山の会の飯塚くんと千葉山の会の倉田くん、彼らは今冬はどこに挑むんだろうか?上ノ原山ノ家の先でタクシーを降りて雪原を歩きだす。やはりトレースは無い。関東から近くてしかも百名山なのにこの山はいつ来てもほとんど登山者に会うことがない。
奈良沢沿いに赤布を追って林道上を行く。前回はこの辺りでもかなり苦労させられたのに、ひと月違うとこんなにも違うものかと思う。積雪は20cm位。ウサギや(熊?)、鹿、タヌキなどの足跡が多くて、アニマルトラッキングを楽しみながら進んでいく。沢は次第に細くなり(この辺り赤布も少ないし歩きづらい)、二股を右へ入りルートは左岸へと延びていく。後ろから来たお兄ちゃんに道を譲り、交代でラッセル。暗い沢筋から尾根上(名倉ノオキ)に出るとあたりは急に明るくなって、空もポカポカの快晴になった。「正月は北鎌行くんスよ。その為のトレーニングなんスよ」「北鎌ですか、すごいなぁ。山岳会(に入ってるん)ですね?」ヘへへっ。と、別に聞いちゃいないのに語っている。そこからは約1時間、股下ほどの雪漕ぎを楽しみ(?)つつ、前回の最高到達地点を経て、手小屋沢避難小屋の近くにテントを張った。本日の幕営予定地だった沖武尊は、まだまだ遠く届かなかった。タ方もう一人の登山者に会ったが、二日間通してこの二人のみ。まったく静かな山である。今日の晩飯は珍しく豪華だ。「今から言っておくけど正月の飯はホーントに質素だからネ」覚悟してますよ。でも、酒本(さかぽん)くん!キミは6日間も酒無しなんて、本当に耐えられるのかね?
「僕らはタヌキに化かされたのか?」
翌朝、まだ寒さに慣れないので6時起床8時出発にする。今日もピーカンの快晴だ。遅く出たおかげで昨日会った二人のトレースが二本すでに付いている。手小屋沢避難小屋からはそれまでの穏やかな道とはうって変わり、急登になる。ヒザ上から股下のラッセル、先頭を行く二人はさぞかし苦労してるだろうなぁ。それにしてもザックが肩に食い込んで重いよ。北鎌と同じのフル装備にしたら30㎏を少し超えてしまってキッツイ!北鎌ではもう少しなんとか軽量化を図らねば…。樹林帯の中をぐんぐんと高度を上げ、凹状の崩れそうに急な雪壁を越えて右へ抜ける。上部には残置フィックスがある。抜け口では先行の二人が相当もがいた跡があった。だけど冬にこの山に単独で入るだけあって、さすがにルート取りがうまいと感心しつつ、ありがたく恩恵に預かってしまいました。
しばらく行くとまた急なルンゼに残置ロープ、こちらは日陰なので氷化していた。そしてさらに上部には鎖場が続いているので、ここで思わずアイゼンを出す。ムムム、なかなか簡単には登らせてくれない、手応えのある山だ。だけどここまで来ればルートは緩やかになって、明るく開けた先には藤原岳と沖武尊(上州武尊山)がもうすぐだ。稜線上は自然が造った芸術的なエビノシッポにびっしりと覆われていた。ずーっと樹林の間に見えかくれしていた景色がバ~ンと立ち上がってくる。ピークには11時30分着。先行した二人がのんびりとくつろいでいた。僕らよりもほんの少し前に着いたようだ。ぐるりと回りには、富士山から南ア、八ツ、浅間、北アや谷川と上越、尾瀬、日光が!どピーカンの空の下で、まっ白な大屏風を眺めながらの昼飯。う~ん最高のぜいたく。
さて、と。ここからが本番だ。(ここからが実に長かった!)冬の武尊は何度も登っているというオジさんはワカンを履いて谷地尾根へ。お兄ちゃんは、ラッセルにめげて、往路を戻ると言う。我々は当然前進、サブルートの武尊牧場へと向かうことにした。全くトレースの無い処女雪。広い雪原には誰もいない、静かだ。まず中ノ岳へ、ふきだまりを避けて稜線上にルートをとる。ハイマツやシャクナゲの上を綱渡りするように行けばたいしてもぐらないが、はずすと腰までズボッ!だ。中ノ岳からはなるべく忠実に尾根上を進む。
目指す武尊牧場は気が遠くなるほど遥か彼方に見える。まだまだあんなに遠いのか。ガチガチなアイスになったルンゼ(5mほど)を慎重にクライムダウン。もうラッセルにうんざりしてきた頃、ふとトレースが現れた。かなり長くしっかりと続いていたので、ひと安心。あとはトレース沿いに…なんて甘かった。妙に足の小さい人、子供かな?とか思っていたが、1時間も進まないうちに木の回りをグルグルと回ってヤブの中へ消えてしまった。「タヌキに化かされた!」いやいやタヌキが道案内をしてくれたのかも。するとあの二人もタヌキか?途中で暗くなってしまった。今日も残業だ。果して今日中に帰れるんだろうか。そのあともウロウロと走るタヌキの足跡に導かれるようにして、トボトボと武尊牧場への雪道を下っていった。
■上州武尊は良かった。特に、静かで深いラッセルが楽しめる(?!)冬にこそ、この山の本当の魅力が味わえるんじゃないだろうか。今回は久しぶりに充実感ある山行だった。さあ次はいよいよ憧れの冬の北鎌だ。冬のバリエーションへと歩を進めるクライマーの登竜門だ。一歩一歩と踏んできて、ようやくその切符を手に入れたのです。そうとう厳しいのはわかっています。いま僕らの力を試すために、いま確かな夢を掴むために!
(注意)・ワカン必携・2泊3日の予定にすれば、ゆっくりと楽しめる山になります。