1990/岩波新書
岳人レポート№8(2002年発行の会報より再録)~
堀田さんと面と向かってお話ができるようになったのは、つい2年ほど前からだったと思う。僕らが三ツ峠の四季楽園に通い始めたのが3年くらい前からだけど、「あっ、堀田弘司さんだ…。とわかっていても、あのいかにもとっつきにくそうなギョロ目である…。とてもとても僕らのような若造が声をかけるなんてことはできなかった。
話ができるようになったキッカケは、酔った勢いで「僕らは吉尾弘の最後の弟子なんです!」と言ってからなのか?それとも、いつもザックに忍ばせておいた堀田さんの著書『山への挑戦』に、飲んだ時に「すいません!サインをしてください。」と頼んだ時からだろうか?はたまた多鶴先輩が酔っ払って泣きながら俺を殴っている光景を見ながら、「泣いたり、笑ったり、怒ったり、忙しいねぇ!」と笑顔で(あきれて)声をかけられてからなのだろうか?定かではない。しかし、いずれにしても僕らがいつものように酔っ払っていたことだけは確かである。話をするようになって、意外と気さくで話し好きな人柄を知った。RCCⅡの奥山章、吉尾弘とのガイド協会設立前夜の話。上田哲農、長谷川恒男、森田勝、小板橋徹…とのエピソード。山と渓谷社時代の話。はたまた、エミリオ・コミチやリカルド・カシンなどなど。貴重で楽しい話をいろいろと聞くことができた。武骨だが、オシャレで博学の紳士だった。文学、音楽、芸術、歴史…、幅広く、知識の豊富な人だった。「下降器だけでもいろいろあるんだよ。」と言って、見たこともないギアをたくさん並べて見せてくれたこともある。
もちろん山の装備や歴史にも詳しくて著作も残している。『山への挑戦 -登山用具は語る -』は、登山用具店「シャモニ」を経営していた堀田さんらしい、山道具の歴史について詳しく書かれた本だ。この本を手に取って「岩波っていうのはね、他の出版社とは格が違うんだヨ。」って、とっても嬉しそうに話していたのを思い出す。
「こんな本もあるんだヨ。まだウチに何冊かあるから君にあげるよ。」と言ってサインも書いてもらったのが、『特別企画展/山の道具 -装備の変遷をたどる -』(1993/富山県立山博物館)という本。こちらは地元 魚津岳友会の佐伯郁夫・邦夫らとの共著だが、数々の古今東西の装備はもちろん、山の本や雑誌の歴史や写真・図版も満載で見ているだけでも楽しい本だ。
昔の山案内人からつづく、「山岳ガイドの歴史と装備」について詳しく紹介した本をぜひ書いて欲しい、と言ってみたことがある。昨今の胡散臭い山岳ガイドが多い中、数少ないガイド魂を持った堀田さんにこそ書いてほしかった。でも、それも叶わぬ夢になってしまいました。RCCⅡから日本初のアルパインガイド協会の設立と発展に力を尽くし、登攀に生き、歴史を作り、アルピニズムの時代を語れる侍がまた一人去ってしまいました。残念です。
「さようなら、堀田弘司さん…。やすらかに。」
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