1986/いなほ書房
「失われた記録 謎の天才クライマー立田實の生涯 上・下」というタイトルで、雑誌『クライミングジャーナル』17・18号に連載したものを豆本という形でまとめたもの。 詩人で尖鋭クライマー、そして登攀史研究家でもある遠藤甲太が 、東京緑山岳会の追悼誌『駆ける山々5000日-立田實追悼誌-』や、インタビューなどから謎のソロクライマーの実像に迫ってゆく珠玉のルポルタージュ。
立田實が 渡航先から宛てた手紙や、わずかに残された写真・メモ。所属する東京緑山岳会の会報やインタビュー。そして生前に会の仲間や夫人にポツリポツリと断片的に語った話などを丁寧に拾い集めながら、失われた記録が少しずつ蘇ってくる。
夢か現か…。実録なのか、はたまた夢物語なのか。その境を行ったり来たりしながら著者自身もとても楽しんで書いているようだ。また山仲間の対談もしかり。実力もさることながら、壮大な夢を見させてくれる一人の魅力的なクライマーの物語。
PS1;写真右は、限定100部の特装本。左の普通本も豆本なので、山岳書専門の古書店でもなかなか見かけることがない。ちなみにこの本は三ツ峠の四季楽園で故 堀田弘司氏よりいただいたもので、なぜか堀田氏あての著者のサインがある(「間違えた。ゴメンね。今度来るときに持ってくるから取り替えてくれる?」って言っていたのに、その半年後に遭難され、それっきりになってしまいました。合掌)。これもひとつの懐かしい思い出になっています。
写真下は、著者私家本で限定10冊のうちの第六番。 『失なわれた記録-立田實の生涯』(1987/著者兼発行者・遠藤甲太)赤い皮革に和紙・天金を施された豪華な特装本だが、本文は版画が一葉入っている以外は普通本と同じ。クライミングジャーナル掲載時には多くの写真が使われていたのに、本書には栞以外に写真がないのが残念です。せっかくの特装本だから(版画を入れるくらいなら)写真の1枚くらい入れてほしかったものですが。でも、大好きな本なのでついつい3種類も買ってしまいましたよ。それにしても表紙と奥付の書名が、『失われた記録』ではなくて『失なわれた記録』となっているのは、なにか著者のこだわりなのでせふか?
PS2;「失われた記録」は、近年『登山史の森へ』 遠藤甲太(2002/平凡社)にも再録されている。この本は、正統登山史年表にはまず記載されないような“登山史の落しもの”ばかりを集めて、氏らしい視線で書かれた好著です。分厚い本なれど、面白くて読みやすいのでぜひとも読むべし。
遠藤甲太氏の文章って、氏の好奇心に自分が一緒に乗っかってグイグイ読めるという感じだよね。
多くの人が未だ目にしていない登山史に関するヤツをもっと読みたいな。
投稿情報: 管理人-鶴多郎 | 2007/09/09 21:08