昭和29/朋文堂
あまりにもマニアックな山の本が続いたのでたまには正統な名著も紹介しまする。著者は後のペンネーム「安川茂雄」として有名。1926年生れの戦中派クライマーで、谷川岳南面の幕岩Aフェース初登攀の記録もある。小説家・編集者・登山史研究者など多才で多くの山書も量産した。RCCⅡな時代に登攀系の本が多く出版されたのには氏の影響が大きいと思われる。内容は、「谷川岳展望」「谷川岳序説」「谷川岳ノート」「谷川岳回想」の4部からなり、写真・ルート解説・登攀史・登攀記・エッセイ・積雪期の可能性などの多角的な研究等など…で構成されている。数ある著書の中でもデビュー作である本書は、後年 マルチプレーヤーとして活躍する氏のエッセンスがぎっしりと詰まっている好著です。
なお谷川岳の岩場についての本としては、戦前に出版された記録集『谷川岳』東京登歩渓流会(昭11/弘明堂書店)が最も古い。
20年間の空白を破って吉尾弘により積雪期の一ノ倉沢滝沢本谷が初登攀されるのが昭和32年。登攀不可能とまで言われた衝立岩が東京雲稜会の南博人らによって初登されるのが昭和34年。「人工登攀と冬期登攀の時代」が幕開けする夜明け前、そんな時代に本書は刊行され、多くの先鋭クライマーたちに刺激を与えた。
PS1;『谷川岳 マウンテンガイドブックシリーズ 6』長越茂雄
(昭29/朋文堂)
日本で最初の山岳ガイドブックシリーズの1冊。内容は『谷川岳研究』のⅠ・Ⅱ部をそのまま再編した廉価版といった感じ。近年のこの手のガイドブックではありえないことだけど、岩場のルートガイドが全体の約1/2ページを占めているのが驚きだ。(なんせ当時最難の滝沢下部の詳細な案内までもがルート図とともに載っているんですから!)
ちなみに、ガイドブックシリーズとしては後発の『谷川岳 アルパインガイド 4』群馬県山岳連盟(昭34/山と渓谷社)を見てみると、こちらは一般ルートに加えて、沢登りのルートが大半を占めているところが面白い。出版各社はライバル誌どうし、工夫して差別化を計っていたようです。
『谷川岳 ニューマウンテンガイドブックシリーズ10』安川茂雄(昭39/朋文堂)
こちらは改訂新版。ガイドブックと冠しているにも関わらず、まえがきには、「本書は谷川岳の岩場についての多くの登山者の足跡を中心にまとめあげた資料的文献ノートであって、岩場を志す人びとの参考には若干の寄与をするかもしれないが、谷川岳登山の入門書でもガイドブックでもないことを強調したい。」とある。初版からこの10年の間に初登されたコップ状岩壁雲表ルートや衝立岩正面壁雲稜ルートの紹介や、積雪期一ノ倉沢滝沢本谷についての記述も追加されている。「その後の谷川岳研究」というべきものか。
PS2;地域研究をテーマにした山書には、ライフワークとして取り組んでいるようなものもあり、その山への著者の思い入れがガッツリと詰まっている。以下、手持ちの本のうち ぜひ読んで欲しいものを記しておきます。薄っぺらな、単なるガイドブックとして読むなかれ。これらは情熱の書ですぞ!
『黒部別山』 黒部の衆 (1986/私家版) ※特装本あり
『黒部別山 - 積雪期 - 』 黒部の衆 (2005/私家版) ※特装本あり
『奥利根の山と谷』 小泉共司 (昭59/白山書房) ※特装本あり
『屋久島の白い壁』 米澤弘夫 (2006/私家版)
『甲斐駒ヶ岳事典 恩田善雄の覚え書き』 東京白稜会 (2005/私家版)
『飯豊 創立50周年記念誌Ⅱ』 わらじの仲間 (2007/私家版)
『三ツ峠研究 創立60周年記念誌』 雲表倶楽部 (平15/非売品)
『戸隠山塊 グループ・ド・モレーヌの足跡』 山岳会グループ・ド・モレーヌ (2006/非売品)
『伊豆・城山フリークライミングガイド400』 國分誠 (2006/私家版)
『南アルプス山行記』 平口善朗・斉藤多積 (1985/サンブライト出版)
『南アルプス 静寂と秘境を求めて』 平口善朗・福田民雄・斉藤多積 (1992/光陽出版社)
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。